鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
392/549

向上に貢献する有益な情報を得るとともに、これまで蓄積されてきた「人文科学からのアプローチ」の研究成果を通じて、丸木夫妻の知られざる技法材料解明、絵画表現の究明も重要な意義をもつとした。3.研究の方法本研究は、岡村幸宣とともに、後藤秀聖(原爆の図丸木美術館学芸員)および、美術史研究者、美術館学芸員、絵画修復技術者らとの連帯を図りながら、保存科学・人文科学の双方向での調査を実施した。[保存科学からのアプローチ]《幽霊》の保存状態を把握・記録するために、愛知芸術大学文化財保存修復研究所の研究員、絵画修復家、専門技術者のもと、高精細デジタル撮影、赤外線・紫外線写真撮影、蛍光X線装置の分析などを応用し、技法材料の解明と保存修復の観点から紙(基底材)・絵具層(色材)の構造や状態を観察。作品の修復作業は、現在も行っている。[人文科学からのアプローチ]丸木夫妻の画業および「共同制作」関連文献・史料を熟覧深査し、実資料のデジタル化を継続のうえ、最終的には総合アーカイブ化を目指す。また、実際に丸木夫妻の制作現場を知る証言者から聞き取り調査を実施し、作品独自の制作方法、形成過程に関する重要な手がかりを得ることにした。[総合的所見の検討]各々の調査結果の分析を行うにあたっては、共同研究者との研究会実施ないし連絡を密に取り、作品の保存修復事業への助言、絵画表現にたいする新しい知見・見解を得る。最終的には、研究成果発表の一般公開を検討した。4.研究成果本研究は、原爆の図丸木美術館が所蔵する、丸木夫妻の《幽霊》、壁画作品4点の修復事業の進捗状況に合わせて、保存科学・人文科学の両面からアプローチし、作品に施された技法材料解明の調査研究を行うことを目的とした。また、佐喜眞美術館(沖縄)をはじめ、各地の資料調査(美術館・文化施設)、および聞き取り調査も計画していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による自粛要請を受け、県内外の出張ができない状態が続いた。これにより、当初の予定を一部変更し、原爆の図丸木― 383 ―― 383 ―

元のページ  ../index.html#392

このブックを見る