①作品解体(屏風の解体、本紙を下地から外す)②本紙剥落止め(本紙の彩色部分が剥落しないよう、膠水溶液で剥落止めする)③煤出し(本紙に浄水をとおし、経年蓄積の煤汚れ等を、吸取り紙に吸収させる)④旧裏打ち紙除去(本紙に湿りをあたえ、旧裏打ち紙を除去、旧繕いも同時に除去する)⑤繕い・穴埋め(本紙の欠損箇所には、裏から補修紙を充てる)⑥肌裏打ち(楮繊維を原料にした和紙で、小麦粉澱粉糊を用いて肌裏打ちを行う)⑦二度裏打ち(さらにもう一層裏打ちを重ねて補強する)⑧仮張り乾燥(仮張り板に袋貼りにして貼り込み、しっかり乾燥させる)⑨下地下貼り(屏風の下地に下貼りをする)作品解体の以降は、水を効果的に使用した工程が続いたが、絵具の顔料は剥離剥落せず、古典的な日本絵画(日本画および水墨画)の修復作業が適切であったといえる(注5)。また、旧裏打紙を除去した際に、本紙裏面には折れ伏せ紙(掛け軸や巻物の折れ部分の補強紙)が数箇所、本紙の断ち切りや紙継ぎの跡などが確認できたことにより、当初は《幽霊》が軸装の状態であり、屏風への改装といった変遷を繰り返すなかで、本紙の欠損が発生したと考えられる(注6)。2023年8月頃には修復完了の予定である。(2)未完成作《夜》丸木夫妻は、原爆の図第1部《幽霊》発表後、第2部《火》を制作する前段階として、未完成作《夜》(1950年、軸装)の群像図を描いている。紙の余白と淡い水墨調の《幽霊》にたいし、《夜》は濃墨の調子が画面全体を印象付ける作品といえる。《夜》の光学調査(正常撮影、赤外線撮影、近接撮影)を城野誠治(東京文化財研究所研究員)に依頼した結果、人物描写の下書き(アタリ)には鉛筆に近い線描がみられ、仕上げ層の段階で木炭や墨の描写が混在していると考えられる〔図3〕。また、特に水墨調(濃墨)の部分には青系顔料が混合または薄く塗布されていることが判明し、丸木夫妻の創意工夫が窺えた。今後はさらに、丸木位里の「水墨画 1940年代」や、《火》などの水墨調の部分を分析し、ほかの作品に同じ表現技法が応用されているかを明らかにしたい。(3)壁画作品《南京大虐殺の図》《アウシュビッツの図》《水俣の図》《水俣・原発・三里塚》壁画作品《南京大虐殺の図》、《アウシュビッツの図》、《水俣の図》、《水俣・原発・― 385 ―― 385 ―
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