注⑴ 公益財団法人ポーラ美術振興財団・2020年度美術館職員に対する助成「丸木位里・俊の絵画作品『共同制作』に関する基礎的研究」(研究代表:岡村幸宣、共同研究者:内田あぐり、古賀くらら、後藤秀聖)⑵ 原爆の図第1部《幽霊》の制作過程については、丸木位里・丸木俊の著作類にその一端が記述され、また、1953年に公開された映画『原爆の図』(岩崎昶製作、今井正・青山通春監督、大木正夫音楽、新星映画社配給)には、《幽霊》の再現制作、第6部《原子野》(1952年)を制作する二人の姿が映し出され、1950年代の共同制作を知るうえで、資料的価値がある。⑶ 当日の講演プログラムは、岡村幸宣「『原爆の図』はなぜ描かれたのか─戦後社会と原爆表象」、後藤秀聖「『原爆の図』を未来に残すために─作品を守り、伝えていく取り組み」、磯谷明子(愛知県立芸術大学文化財保存修復研究所研究員)「『原爆の図』第一部《幽霊》修復経過報告」。一般参加者(会場・オンライン)は218名。本稿では、磯谷明子の発表内容を踏まえて、《幽霊》の調査報告を行っている。⑷ 本紙が修復作業「旧裏打ち紙除去」を終えた際には、アクリル板の専用台に載せて透過光観察制作のため、こうした人文科学的アプローチも必要不可欠となる。また、実資料のデジタル作業では、特に丸木俊のデッサン・スケッチ類を中心に行い、1940~1980年代の人物描写の軌跡をたどり、「原爆の図」に発揮された群像表現を検証する機会とした。5.今後の課題本研究は、美術館所蔵の作品修復という実践的な研究調査であり、今後も継続的に必要とされるものである。「原爆の図」の本格的な作品修復は、今回が初めての試みであり、修理方針を導き出すためには、光学調査をはじめとする「保存科学的なアプローチ」とともに、保存状態の改善・修理方針の決定には、作品に蓄積された情報や制作に関わる歴史的をひも解く必要があり、「人文科学的なアプローチ」による検証が欠かせない。また、丸木夫妻が共同制作した作品は、共通して日本画の技法材料を使用しているが、作品ごとに異なる彩色絵具や描画方法を多用しているため、修復作業の方針を決定するためには、各自、事前調査を十分に行うことが求められる。原爆の図第1部《幽霊》の修復を契機に、第2部以降も順次、修復の必要性を検討していきたい。しかし、本稿で紹介したとおり、壁画作品など早急に修復処置を必要とする作品事例もあることから、修復の優先順位などは慎重に見極めていかなければならない。同時に、本研究における研究成果は、原爆の図美術館の改修工事・新館建設(展示室・収蔵庫)を考えていくうえで、有益な情報・知見として役立てていきたいと思う。― 387 ―― 387 ―
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