鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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㊴ 六朝装身具の復元的研究研 究 者:国立歴史民俗博物館 研究部 准教授  上 野 祥 史はじめに六朝期は、中国が分裂を迎えた時代である。西晋の短い時期を除き、統一王権は不在であった。旧来の社会秩序は崩壊し、時勢にあわせて新たな秩序が模索された。王権の統制力は低下したが、国家形成を進める東アジア周辺諸地域との関係において、中国は国際秩序の要として機能した。国内外で社会が変容するなか、秩序の回復や構築にさまざまな文物が動員されたが、身分、階層、出自を可視化する装身具は重要である。ここでは、両晋の装身具に注目することで、中国社会の変容、あるいは東アジア国際関係の構築などを展望する基礎としたい。1.六朝装身具への着目(1)三国両晋南北朝時代の時代的特徴三国時代以降、隋唐の統一に至るまで、中国は統一王権を欠いた。後漢時代ごろより、旧来の社会体制は限界を迎えており、3世紀の三国時代以後は、集団の規模も社会の統合形態も変化した。各地の社会に対する王権の統制力は低下し、中国は政経的に自己完結した地域社会の集合体へと変質する。皇帝権力の低下、門閥の固定化、貴族制の確立という言葉で形容する中世的世界が確立した(注1)。旧来の社会を支えた諸制度は崩壊し、社会情勢にあう秩序が構築されたのである。4世紀の華北は、五胡十六国時代を迎え、王朝がめまぐるしく興廃した。頻発する戦乱は社会を荒廃させ、自発的あるいは強制的な移住が頻繁におこなわれ、社会は流動性を高めた。そのなかで一定の統合や安定が実現すると、秩序の回復や体制の整備が図られた。その際に参照されたのは晋代の社会である(注2)。流動性の高い社会が安定、統合へと向かうなか、絶えず体系を備えた秩序への回帰が意識された。支配の実効性は低いが、統合の核となる求心力を王権は備えていた。4世紀に華北が分裂し混乱するなかで、晋朝は各地の独立勢力と連携し、中国を再統合する核として機能した。5・6世紀には、国内の統合が果たされ南北に王権が並立したが、それぞれ国際秩序のなかで求心力を発揮した。中国の周辺では、諸民族の国家形成がすすみ、朝鮮半島や日本列島などの各地では、王権との関係を利用して社会の統合や秩序の構築を進め、華夷に互恵的な国際秩序が形成された(注3)。三国両晋南北朝時代は、中国の内外で新たに秩序の形成が進んだのであり、国内の― 423 ―― 423 ―

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