鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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欖子、当帰[抽斗ヘ(髹漆箱)]エケビシヤ、シンセン、ヲヲリウン、エンバラバジリ、キコウユ、ヘルトン、ロクシ、クワイセイ、丁香[抽斗ニ(銀製合子)]備急丸、玉丹、赤龍丹、平水丸、熊胆丸、紫圓、大𣴎𣴎𣴎丸、𣴎𣴎丹、𣴎𣴎丹、𣴎吸丹、滚痰丸、二血丸、奇應丸、テリアゝカ、賀嶋丸、生々乳[抽斗チ(硝子瓶)] 水銀、バルサンペイリウ、煉蜜これらの他に、薬匙、卦算、鍼灸道具などが収められている。「薬箪笥」および内容品は、美術品としてはもちろんのこと、医療文化財としても貴重な作例である。3.桃葉作品の作風と薬箪笥「薬箪笥」は桃葉の他の作品と比べて、どのような特色があるだろうか。全体像の中で考えてみたい。今回調査できた2代以降の作品も含めた「観松斎」もしくは「桃葉」の銘をもつ作品は約90件であるが、うち初代のものは56点である。半数以上は印籠で、印籠蒔絵師であった桃葉が生涯で数多の印籠を制作してきたこととも比例する。桃葉の印籠については近年詳細な分析がなされているため(注5)、その膨大な作例の分類等を参照しつつ、今回は「薬箪笥」と同様に、大型の作品を対象とすることとする。調査できた印籠以外の桃葉作品は〔表1〕のとおりである。「薬箪笥」同様に研出蒔絵による精緻な作品もあるが、高蒔絵や肉合研出蒔絵でモチーフを立体的に表現している作例が多い。また梨子地のつくり方に特色があり、単に空間を埋める地蒔きというよりは、情景を映し出すかのようなニュアンスをもっている。これは桃葉の作風といって良いだろう。さて、先行研究(注6)に導かれつつ、その中から基準となる紀年銘のあるもの、おおよその年代がわかるものを抽出すると次のようになる。明和5年(1768)~安永6年(1777)頃 蓮池雲龍蒔絵厨子(妙𣴎寺天授院)明和8年(1771)薬箪笥安永4年(1775)宇治川蛍蒔絵料紙硯箱(宮内庁三の丸尚蔵館)〔図4〕天明元年(1781)波涛蒔絵鞍(個人蔵)天明2年(1782)箏 銘九江(瀟湘八景蒔絵箏、徳島県立博物館)天明5年(1785)以前 塩山蒔絵細太刀拵(東京国立博物館)― 437 ―― 437 ―

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