鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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択ママ本三百冊程」(注12)、つまり蘇峰遺愛の洋書が含まれ、その中に全集39巻〔図2〕をはじめとするラスキンの原書や選集、伝記等13点計58冊が収められていること、第二に「蔵書中『蘇叟九十五以後感得』の朱印は、御病中の指示に依って出来上ったもの」で、蘇峰の他界後に押捺された蔵書印であるが(注13)、ラスキン関連文献の多くにこの朱印が押されており〔図2〕、蘇峰にとって愛蔵書中の白眉であったことによる。本稿では、蘇峰と英米のラスキニアンとの交流の観点から、以下3点43冊の旧蔵書について述べる。①  E. T. Cook and Alexander Wedderburn eds, ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■, 39 vols, Library Edition, London: George Allen; New York: Longmans, Green, 1903-1912.〔図2〕本稿冒頭の引用に、蘇峰は「全集の編輯者たる、而して其の公式伝記の編著者たる、サー・エドワート・クックにも面会した」と書いていた。この39巻の全集は、そのクックの編纂になるラスキン全集、いわゆる「ライブラリー版」である。「蘇叟九十五以後感得」〔図2〕の朱印が押され、全巻の表紙の裏に〔図2〕右上の蔵書票が貼られていることから、1905年頃オックスフォード郊外にユーウェルム・ダウン・ハウスを建造したフランク・ローソン(Frank Lawson, 1865-1920)(注14)の旧蔵書であったことが分かる。蘇峰の入手時期は不明だが、ローソンの没年から、おそらくは1920年以後と推察される。ラスキンの著作は、アメリカで刊行された廉価な海賊版でも読むことができたが、蘇峰が手元に置いていたのは、ラスキンの愛弟子ジョージ・アレン(George Allen, 1832-1907)が創業した出版社から刊行され、製本・挿絵等の質の高いことで知られる、この全集であった。今回の調査で、世界的にも珍しい資料が見つかった。赤いモロッコ革のケースに収められたラスキン自筆の書簡とその翻刻である〔図3〕。翻刻には「同封のジョン・ラスキン自筆の書簡は、ライブラリー版の限定付録である(The enclosed letter in the handwriting of John Ruskin is presented with the limited library edition.)」と記されている。興味深いことに、この限定付録が添えられたのは1912年の販売分のみで、例えば、世界有数のラスキン・コレクションである英ランカスター大学蔵ワイトハウス・コレクション(Whitehouse Collection)等に現存例がある。その背景はこうである。アレンの没後1911年設立の新会社ジョージ・アレン社は翌年、ライブラリー版の未製本分をエンサイクロペディア・ブリタニカ社に売却した。その際にアレンの息子は、ラスキン発アレン宛の書簡を同社に譲り渡した。同社は、未製本分を濃紺のク― 469 ―― 469 ―

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