鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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⑤ 戦間期日本の製菓会社のPR誌とそのデザイン─森永製菓と明治製菓の初期のPR誌─PR誌とは、どのようなものを指し、どのような役割を帯びたのかを概観する。まず、PRとは、パブリック・リレーションズ(public relations)の略で、日本語で「広報」を指す。『日本国語大辞典』によれば、「官公庁、団体、企業などが、施策や事業内容、主義主張、商品などについて、大衆の理解と協力を求めるために、各種の媒体を通じて広く知らせること」とある。ただし「一般に、長所・美点を宣伝すること」と付記され、「宣伝」の語を含む。このように、「広報」「宣伝」「広告」はいずれも重なる意味を帯び、これらの語について明確な境界線を引くことはむずかしいと考えられる(注3)。ただし、「広報」は公共性をより強調するため、本稿では、考察対象である製菓会社の広報について、その事業や商品、あるいは、望ましい姿について理解や協力を求めるため、多くの人に周知する活動と考える。研 究 者:京都芸術大学 芸術学部 専任講師  前 川 志 織はじめに1910年代後半から20年代にかけて、製菓会社のなかには、商品の販売網の整備と拡大を進めるなかで、社内に広告部やそれに該当する部署を配置し、宣伝戦略を推進する企業が現れた。こうした部署は、近代広告の作り手として、工業学校や工芸学校出身の図案家らが結集したため、「企業内工房」とも呼ばれた(注1)。この動きを視覚的に示すものの一つに、製菓会社のPR誌があげられる。本研究では、これらのPR誌は、誰に向けて、どのような目的で、どのように制作されたかについての基礎的調査に取り組んだ。コロナ禍における資料所蔵機関での調査の困難を踏まえて、具体的には、PR誌研究の射程を整理したうえで、入手済みの資料にもとづき、明治製菓と森永製菓を中心に、戦間期日本の製菓会社PR誌各種の刊行目的・記事内容・そのデザインを検討することで、製菓会社におけるPR誌が果たした役割と「企業内工房」の制作実態を検証するための基礎的事項の整理を試みた(注2)。1 PR誌の特徴とその研究の射程そのうえで、PR誌については、『日本大百科全書』によれば、企業、商品などのPRを目的とする印刷刊行物で、本来は従業員向けの社内報と、顧客や一般向けの社外報の両方を含むハウス・オーガン(house organ / 機関誌)を意味するが、日本で― 490 ―― 490 ―

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