PR誌刊行の目的は、こうした市場拡大のための分業体制の整備に伴い、従業員だけでなく、契約を結んだ小売店舗に向けて、販売促進や宣伝戦略の統一化を図る意図があったと考えられる。記事内容の編集方針に関わる興味深い一文として、1号の「編集だより」に「誌面は務めて趣味と実益を兼ねたものに致したい」とある。ここでいう「趣味」とは、従業員や特約店・小売店の実益に直接には結びつかない、読者の好みや娯楽的な要素を指すかと思われる。各巻号を通覧すると、「菓子定価表」「特約店・販売店一覧」が定番記事で、本社創業者や専務による記事、本社および販売会社や関連組織の動静、販売促進につながる記事(KS生(内国販売部)「店頭の装飾を活かす事が必要である」、9号、1924年2月、等)が目につく。これらの記事から、社内関係者にとって有益な商品・事業に関する情報や、特約店店主に向けて販売促進を啓蒙するための記事が掲載されたことがわかる。一方で、趣味に該当する記事がどれかはやや判然としないものの、実益一辺倒ではない内容として、有識者による菓子全般に関する記事(丹羽敬三「衛生文化より観た菓子の現状」2号、1923年6月、等)、企業の商品や事業に直接言及しない家庭に関する記事(作者不詳・編集部か「家庭の改造は趣味の生活から」、2号、1923年6月、等)を見つけることができる。また興味深い記事として、終頁辺りには読者投稿欄が連載されている。そのほかにも、時折、漫画(作者不詳・編集部か「恋とキャラメル」、4号、1923年8月、等)、大正期に流行した俗謡にのせた宣伝歌(米澤市大町岡野屋商店・磯部静涙の投稿歌「鴨緑江ぶし」、2号、1923年6月、等)、童謡にのせた宣伝歌(S生「童謡汽車ごっこ」、2号、1923年6月、等)などが掲載された。これらは、消費者に近しい位置にいる小売店の読者が親しんだであろう漫画、俗謡、童謡といった娯楽としての趣味を盛り込んだ内容と考えられる。他方で、これらの記事は、漫画、俗謡、童謡の表現形式を利用し、これらに親しむ消費者に向けた広告の提案としても捉えられる。こうした手法は、三越による文学を利用した広告手法を想起させる。次に、誌面のデザインを確認する。タブロイド判、各号20頁ほどの白黒印刷である(28号から最終号は8頁)。表紙には毛筆体の題字が用いられ、頁全体に写真や図案を載せたものが多い〔図1〕。中頁は、見出しとリードのある新聞を模した記事のレイアウトになっており、見開き頁に、1、2点ほどの写真が挿入されている。写真の被写体には、近代的な工場や直営店、ショーウインドウなどが選ばれ、記録写真が主であるが、最新の写真製版術による鮮明な写真印刷がさらにモダンな印象を誘ったと思― 493 ―― 493 ―
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