報を中心とした」ものであった(注14)。明治製菓も、チェーンストア制にもとづく直営店、直営販売所の設置と小売店の系列化という森永製菓と似通った手法によって、広範な販売網を広げていた(注15)。したがって本誌は『森永月報』と同様に、社内および取引先の特約店や小売店に向けてのハウスオーガンの役割を担ったと考えられる。その基本的な編集方針は、編集後記「丸の内だより」(1巻1号か、1926年10月)に記されている(注16)。「『スヰート』は一には清新な読物として一にはお菓子に対する正しい理解をすすめるために、そして共存共栄の親愛の連鎖のために本誌のよい成長のためにどうぞ御援け下さい。」本誌は、洋菓子および自社製品への正しい理解に加え、読み物という娯楽の提供を兼ねたものを目指した点でも、『森永月報』と共通する。さらに、読み物の清新さへの着目は、趣きや好みとしての趣味を演出しようという考え方が根底にあったからかと思われる。1920年代刊行のものは残念ながら現時点では未調査のため、1930年代刊行のものの内容とデザインについて概観する。内容については、新商品の紹介、売店だより、商品宣伝の一環である懸賞募集の盛況ぶりの報告など、商品や事業の動静を把握し、販売促進につながる、社内外関係者にとって有益な商品・事業に関する情報が掲載されており、この点でも『森永月報』と共通する。他方、1930年代刊行のものに限ってみても、著名な文筆家による読み物が目立つ点は1920年代から引き継がれた特徴のようである。たとえば7巻2号(1932年5月)では、小説家・久米正雄のエッセイ「甘き世の思い出」、同じく小説家・邦枝完二のエッセイ「菓子雑稿」、小川未明・作、武井武雄・画による童話「チヨコレートノニホヒガシマス」などがある。いずれの読み物もこの雑誌のための寄稿と思われ、文学界の著名人による短いながらも味わい深い文章という点からも、文学的な香りが強調された「清新さ」を感じさせる内容である。20年代も同様の編集の特徴があったとするならば、これは、『森永月報』にはない、『スヰート』ならではの特徴と考えられる。視覚的な効果への配慮としては、表紙は色刷で、「スヰート」の明朝体の題字を基本とし、この表紙〔図4〕では、シックなグレーの洋装のモダンな女性、背景の空と緑のさわやかな色彩が印象的である。このように、洋画家が寄せた女性や花を題材にしたモダンな原画を使用したものが多く、美術による高級文化の香りを演出している。また、中頁には、タイアップ映画や店舗写真など写真を主とした多色刷りのグラフページが設けてある〔図5〕。モノクロ写真に商品パッケージのみを色付けし、映― 495 ―― 495 ―
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