まず、『女性』第2巻第3号(大正11年9月)掲載の山のカットでは、半円の枠の中に、和服姿の女性の半身像が描かれている〔図1〕。女性の顔の描き方を見ると、目の上部、上瞼を点線で表現している。また、同じ号に掲載された別のカットでも同じ表現方法を用いている〔図2〕。アーチ型の枠の中に描かれた女性の顔は、点線によってその起伏が表わされている。この方法は、第2巻第4号(大正11年10月)のカットにも取入れられている〔図3〕。この2点では、人体の起伏、とくに筋肉や関節部分に点線が用いられている。第2巻第4号の作品では、人物の足下から伸びた植物が頭上で葉を茂らせており、■■■■■■版《クライマックスJʼai Baisé Ta Bouche, Iokanaan》(1893年)背景の曲線とも類似している〔図4〕。・曲線の多用山が手掛けた第2巻第6号(大正11年12月)の扉絵では、岩に腰掛ける女性の姿が描かれている〔図5〕。女性の背後には、植物を思わせる曲線が画面上部へ向かって伸びる様子が描かれている。また、画面下部では、左下から雲状の模様が湧き上がるように描かれ、中央には植物が二筋、上部へと伸びている。曲線や、中央下部の植物の形状には、《クライマックス》〔図4〕との類似性が見られる。また、この作品でも女性の顔や衣服の皺などが、点線を用いて表現されている。さらに、この号では《妖姫タマル》と題された1頁大の山の挿絵が掲載されている〔図6〕。画面左側下部より、曲線で描き出された雲状の模様が湧き上がって背景の黒を画面右側へと押しやり、中央部には、この雲状の白い部分と黒地の背景とを区切るかのように鳥が画面右方へと飛んでいる。画面右側には花や、ハートを点線で丸く囲った模様が描かれている。画面左下部から、女性が左手にかけている布は、アザミの葉に似た模様が描かれている。画面上部からはランプが下がり、細い炎がやはり点線で表現されている。背景を黒と白で区切る構図や上昇する曲線、点線による陰影の表現、女性の手にかかる布の描写など、細部に渡ってビアズリー作品の特徴を見いだすことができる。・背景の塗りつぶし・雲状の模様第3巻第3号(大正12年3月)〔図7〕、第3巻第4号(大正12年4月)〔図8〕の扉絵は、特に『サロメ』の挿絵から学んだ手法を山自身の作風と融合し、新たな画風を生み出した作例と考えられる。第3巻第3号の扉絵では、女性の背後に黒いカーテ― 505 ―― 505 ―
元のページ ../index.html#514