ンがかかっており、女性の背中に布の膨らんだ部分が迫っている。着物の裾には、雲のような模様が上方へ向かって描かれている。帯にも細かな線で模様が描かれており、『サロメ』で多用される鱗状の模様とも類似している。女性の顔は非常に小さく、着物の模様を描くことが主とされているかのように存在感が薄く、糸のように引き延ばされた指先は異様なほどに細い。着物の模様と同化し、この女性もろとも総てが模様であるかのようである。第3巻第4号(大正12年4月)の扉絵でも、女性はやはり雲か鱗のような模様の衣装を身につけている。画面上部描かれた香炉からは、曲線と点線で表現された煙が広がっている。女性の前に描かれた花瓶には一輪の花が挿してあるが、花の重さに茎が弧を描いて頭を垂れ、花瓶の下部にも絡み合う曲線が描かれている。画面下部中央、女性の肘付近から頭上に向かい、黒く塗りつぶされた部分が人物の存在感を強調している。このように、画面の一部分を塗りつぶす手法は『サロメ』をはじめとする多数の作品でビアズリーが使っている。光を描くことが困難なモノクロのイラストレーションにおいて、黒の塗りつぶしはそこに強い影があることを表わし、光と闇両方の存在を鑑賞者に意識させる効果がある。第3巻第2号(大正12年2月)の扉絵〔図9〕にも《クライマックス》〔図4〕を彷彿とさせる曲線による植物が描かれ、画面下部には一匹の猫が描かれている。猫のひげや、尾の先端から寝癖のように飛び出した毛がくるりと丸まった様子など、■■■■■■■■の猫に共通する特徴がある〔図10〕。背景の樹木は、幹はなく葉のみが描かれている。このようなモチーフの省略やデフォルメの仕方にも、ビアズリーの影響を指摘することは可能であろう。・線の省略ビアズリーの作品では、しばしば細部の線を省略・簡略化することがある。《サロメの化粧Ⅱ》〔図11〕では、サロメの右腕や脚、腰掛けているはずの椅子などの線は省略され、肩に羽織った布に隠されているようにも見える。山名は『女性』において、このビアズリーの手法に則って省略の方法を模索していることが伺える。第8巻第3号(大正14年9月)「救いのない人生」のカットでは、顔を覆いうつむく女性の姿が描かれている〔図12〕。平面であることを意識し、あえて奥行きや立体感を出さないために、画面奥側に見えるはずの足の線を省略している。前傾する姿勢により下腹部にできる膨らみは、点線を用いた山とは異なり、《サロメの化粧Ⅱ》のような輪郭線のみで表現している。山が線を多用するビアズリーの特徴を取り入れたのに対し、山― 506 ―― 506 ―
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