鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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・■■■■■■■■の人物像からの影響名は省略の手法を選択し、自身の作品に取り入れたとも考えられる。また、第9巻第2号(大正15年2月)の扉絵でも大胆な省略が行われている〔図13〕。右手に花を持つ女性の上半身が描かれているが、腕から下の部分は一本の曲線で区切られた空白部分に隠されている。この空白部分が女性の体なのか、それとも何かに寄りかかっているのか詳細は鑑賞者に委ねられている。空白部には髪が垂らされ、あとは画面左側に少ない線で描かれた植物があるのみである。しかし、手に持った花が画面右方で途切れていること、女性の顔がやや斜め上に向けられていることなどから画面の外側を想像させる構図となっている。少ない線でストーリー性のある画面を作り上げている点においても、ビアズリーから学んだ可能性を指摘することができる。また、『女性』のカットに時折現れる奇妙な造形の女性像は、■■■■■■■■のためにビアズリーが描いた作品とも似通っている。ビアズリーの作品からは、奇怪な造形に毒々しさが漂うが、山と山名の奇妙な女性たちは、装飾性を追求した結果の造形であり、先述した線の省略の応用とも考えることができる。山が描いた第10巻第5号(大正15年11月)のカットでは、頭巾をかぶったような女性の頭部のみが描かれている〔図14〕。■■■■■■■■に掲載の、羽を持つ天使のような人物像とその造形が非常によく似ている〔図15〕。この天使は、肩の辺りから下に向かって烏のような翼を持っており、山の描いた女性は、翼ではなく頭にかぶった布か頭巾の端のようなものが肩から下がっている。第6巻第3号(大正13年9月)の山名のカットでは、複数の花をつけた植物の茎から、目を閉じた女性の顔が花のように伸びている〔図16〕。ビアズリーの作品にも、頭部のみの人物が植物と融合しているものがあるが、山名のカットと比較すると、奇怪な造形がより際立っている〔図17〕。ビアズリー作品のエッセンスや主題のみを借用し、山名の特徴である装飾的な描き方によって毒々しさがそぎ落とされ、装飾模様として頁を彩っている。おわりに本稿では『女性』掲載の山六郎・山名文夫のカットについて、発行された全72冊からそれぞれビアズリーの影響が顕著なものを抽出して検証した。その結果、それぞれの受容の仕方に次のような特徴がみられることが判明した。― 507 ―― 507 ―

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