鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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然現象に関わる風の尊格表現を論じた。日本を含めた中国文化圏には、風神と総称される風の尊格は数多く存在するが、歴史的にみると早期には雷神など対で表わされるものが多く、仏教伝来に伴い群像形式をとる千手観音の諸眷属に含まれるようになる。ここではその変遷を辿り、そこに期待された役割や機能が論じられた。次に武瀟瀟氏 (東京国立博物館アソシエイトフェロー)が、中国の画史、画論などの文献を手がかりとして、風に関わる画題を分析した上で、その変遷を辿りながら、瀟湘八景を中心とする風景画に絞り、目に見えない風や大気の表現と、その機能や象徴性について考察した。最後にメルテム・アルティノツ氏(アンカラ大学准教授)が、トルコにおいて伝統的な細密画から西洋的な油彩へと絵画表現が変遷する過程で、とくに風という自然現象の再現的認識が如何に現れたかを、トルコ帝国からトルコ共和国へと移行する歴史的・社会的背景と共に論じた。各日ともに、チャット機能を使って寄せられた質問に答え、各パネリストが他のパネリストに自らの発表と比較した質問を行なうなどの形で全体討論を実施した。討論の時間は短かったが、充実した質疑応答や意見表明が行なわれた。27日の閉会の辞を担当したバート氏は、一人一人の発表に対してコメントを寄せ、とくに気がかりだった東洋の風については大いに啓発されたと述べた。また、現代美術における哲学的考察や、アニメーション作家や現代アーティストの発表も刺激的で、日本における西洋美術研究も高く評価された。とくに、今回の指摘を受けてロヒール研究は見直しが必要となると、本シンポジウムの学会への影響を強調した。これら報告者の人選は、バート氏やその他識者の推薦によるものであった。過去に風に関するモチーフを扱ったことがあった研究者がほとんどであるが、風を正面から扱うことで、新しい展開ができたことを、感想として述べる報告者もいた。③ 実施方式シンポジウム開催のおよそ1年前から準備を開始したが、コロナ感染症の終息を予測することはできなかった。対面とオンラインの併用も検討したが、どちらかにしないと時間調整が困難だったので、オンラインのみの開催を準備することにした。日欧の研究者が、不快感なく集うことができる時間帯は限られているため、二日間の日程にした。また限られた時間を有効に活用するため、バイリンガルのZoomシステムを利用することにした。双方向の通訳は、プロの通訳者ではなく、大学院生が担当することになっていた。国際会議の経験を積んでもらうという配慮から選んだ方式だった。この方式では発表原稿をかなり早く提出してもらう必要があったが、必ずしも締― 536 ―― 536 ―

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