鹿島美術研究様 年報第39号別冊(2022)
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されるような遠近感があるようにみえる。しかしまだ左右対称の広がりの方が強く意識されている。このように本図は、画面は縦横に4分割され、その対角線を基準として各モチーフが左右対称に規則正しく配置されてはいるが、奥行きの表現は形式的で、画面は平面的(二次元的)な要素が強い。3-1-2 南響堂山石窟 浄土変(北斉・6世紀後半)〔図3〕先の3-1-1麦積山石窟の作例と同様に、中尊の如来を中心とし、左右対称に任意の外枠(白線)を設定した。先の作例と同じく、縦横の中心線A・B、対角線C・D、さらに縦の4分の1の線E・F、横の4分の1の線G・Hとした。すると、中心点は中尊如来の頸部分、また枠線の下部から4分の1の線Hから下部には宝池が描かれ、両脇侍は各々線E・F上に配置され、線Hとの交点はちょうど両像の胸元にあたる。また線G・Hで囲まれた横長の部分には、中尊如来・菩薩・聖衆、楼閣が描かれている。横の中心線B上には中央の如来像の頸だけではなく、左右の菩薩や聖衆の頭部が並列する。これらの尊像の大きさの差はほとんどなく、左右対称に並列して配置されている。ただし宝池と左右端の楼閣にはわずかな遠近感がみられる。このように各モチーフは縦横の中心線や4分の1の線、対角線を意識しながら配置されており、左右対称を重視してバランスをとっている。楼閣や宝池に遠近感もわずかに見られ、左右端の菩薩や飛天が中央の如来の方を向いていることにより、如来を中心とする浄土世界の一体感が生まれている。先述の3-1-1と同じように、未だ平面的ではあるが、如来が説法を行う狭い範囲の浄土の景観と群像表現を画面上に整理して表現しようとする意図がうかがえる。3-2  浄土図の構図の変化   成都万仏寺址出土 二菩薩立像 背面 浄土図 6世紀(再考)〔図4〕本図について、3-1の2作例と同じく、縦横の中心線A・B、対角線C・D、さらに縦の4分の1の線E・F、横の4分の1の線G・Hを示した。下4分の1の線Hは全体の景観構成に活かされていないが、中心点、また上4分の1の線Gは如来の足元となり〔図1〕と同様である。線Gから上部の4分の1には、天蓋や飛天などの虚空があらわされている。特に線E・Fと対角線C・Dの交点上には左右対称に飛天が配され、その体は中央の如来像に向かっている。― 72 ―― 72 ―

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