〔図1〕での考察に加えて、この画面における中台、聖衆、左右の宝池、左右の楼閣の遠近感をつけるための角度は、対角線C・Dと、平行する対角線に沿っていることがわかる。このように〔図1〕での考察に加え、平行する対角線の角度を基準として、3-1の2作例よりもより広範囲な景観の遠近感をつくりだしている。つまり、平面的な描写を脱し、広大な景観の立体的な表現を目指して構図が変化していることがうかがえる。3-3 成熟する浄土図の構図3-3-1 構図の完成:敦煌莫高窟 第220窟南壁 阿弥陀浄土変相図(初唐)〔図5〕中央の阿弥陀如来を中心に左右対称に外枠(白線)を設定し、縦横の中心線A・B、対角線C・D、縦の4分の1の線E・F、横の4分の1の線G・H、さらにこれまでに加えて8分の1の線I・Jを定めた。中心線A・Bの交わる中心点は、中尊阿弥陀如来の蓮台部分、上から4分の1の線G上に阿弥陀の面部中央があたる。下部から4分の1の横線Hまでは舞楽段で、胡旋舞を舞う天人や伎楽天が配され、また線G・Hで囲む中央部分に、方形の宝池と阿弥陀如来・両脇侍・聖衆、また左右端の楼閣がおさまっている。線Gから上部には、宝樹と楼閣、飛天・化仏の虚空段があらわされている。本図では3-2と同じく広範囲の浄土の景観をあらわしている。宝池の大きさは線I・J・G・Hで囲まれる部分におさまっている。また宝池と橋、伎楽天の敷物には遠近表現がみられるが、その橋と敷物の角度は、中心点から線E・Fに放射状に延びる線に、また宝池の角度は対角線E-I、F-Jに沿っている。同様に、左右端の楼閣にも遠近表現がみられ、屋根の角度は中心点から線Gに向かう放射線にほぼ沿う。さらに、上部左右では対角線Cと線I・E、対角線Dと線F・Jの交点上に合計4体の菩薩が、下部でも対角線C・D上に菩薩が左右対称に配置されている。画面全体に聖衆がいるが、中心点から放射線状に広がる線上の仏・菩薩たちはほぼ如来の方を向き、阿弥陀如来に注目が集まるように構成されている。このように、縦線、横線で画面を効率よく分割するだけではなく、中心点を通る対角線、放射線をもとに遠近感をつけ、中央の阿弥陀如来に求心力を持たせる構図となっている。これまでの3-1、2の浄土図と比較すると、分割線の数も増え、その中で奥行きにも配慮しながら、自然かつバランスよく多数のモチーフを前後に配置する姿勢がみられる。阿弥陀仏を中心とする浄土の光景が立体感をもってあらわされ、絵画として構図が一定の完成期を迎えたと考えられる。― 73 ―― 73 ―
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