3-3-2 成熟する浄土図:敦煌莫高窟 第220窟北壁 薬師浄土変相図(初唐)〔図6〕薬師浄土で七体の薬師如来が横一列に並ぶ。本図の中心点は中央の薬師如来の足元である。下部から4分の1の線Hまでの舞楽段には胡旋舞を舞う天人が配され、また線G・Hで囲まれた中央部分に蓮池と背丈が同じ七仏薬師が等間隔に並び、線G上には各如来の面部中央があたっている。線Gから上部の4分の1には宝樹と飛天の虚空段である。宝池の下部左右端は8分の1の線I・Jまでとなっている。本図では対角線や放射線はあまり意識されていないが、この基本的な分割の方法は3-3-1の阿弥陀浄土変相図と同様である。つまり本図についても、縦横を2等分・4等分線、あるいは8等分する線によって構成されており、画面を等分割しながら構成する方法が定着している様子がうかがえる。3-3-3 盛唐以降の浄土図:敦煌莫高窟 第45窟北壁 観経変相(盛唐) 〔図7〕本図もまず外枠(白線)を任意で定めた上で、縦の中心線A、横の中心線Bを定め、中心点を求めた。すると中心点は、中尊阿弥陀如来の結跏趺坐する足元となった。さらに対角線C・D、線E・F、線G・H、線I・Jを用いた。まず、下部から4分の1の線Hより下に舞楽会の伎楽天がおり、また中央の阿弥陀如来と菩薩、聖衆、また中台と宝池の三尊段は、線Gから線Hの間に収まる。左右端の菩薩は、8分の1の線I・Jより外に配する。宝池の幅は、どれも横幅の16分の1、縦幅の8分の1である。中台の奥行きは画面の4分の1の高さとなっている。線Gから上は、虚空段、宝楼閣段となっている。また遠近表現の角度は、中段の中台は対角線A-C、A-D、A-I、A-J、最下段の橋も対角線I-L、J-Kに沿っている。このように本図は縦と横の2等分、4等分線、また他に中心線A上を起点とする複雑な対角線に沿って宝池とさらに多層構造となった中台と聖衆、楼閣が配されており、規則正しい構成である。3-2の初唐の阿弥陀浄土変相図と比べて、さらに複雑な構図となっており、浄土図が最初の完成期を迎えた後、構図法が安定し、応用されていく様子がうかがえる。おわりに 阿弥陀浄土図の構図の特徴-庭園における楽園思想との関連本稿では、阿弥陀浄土図を中心とする浄土図について、南北朝時代の初期から初唐の完成期、また盛唐の成熟期に至る6作例の景観の構成について検討してきた。それ― 74 ―― 74 ―
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