鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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うな同時代の画家とのコラボレーションや、衣食住を横断する表現方法も、クシュナーのインスピレーションを掻き立てたのだろう。クシュナーの代表的なパフォーマンスの一つ《ペルシアン・ライン》(1975年-)〔図4〕は、ポワレが1911年に自邸で開催した夜会「千二夜」へのオマージュと解釈することができる。「千二夜」の異国情緒に満ちた仮装が、本作では前述したようなテキスタイル作品に置き換えられる。壁面に展示されていた「平面」作品が観者の目の前でとり外され、さまざまな体型やジェンダーの人々の身体にまとわれて動き続けるインスタレーションに変化する。平面的に見えていた模様が、運動し、奥行きや空間を作り出す。演者の身体よりも大きなテキスタイルが旋回する様は、ポワレと同時代に活躍したロイ・フラーのモダン・ダンスも彷彿とさせる。キャリアの初期に、アラン・カプローやポーリン・オリヴェロスといった気鋭のアーティストたちによる「ハプニング」やパフォーマンスに参加していたクシュナーは、1970年から82年にかけて、彼自身が「コスチューム」と呼ぶ身体彫刻を制作し、パフォーマンス・アートとして発表した。クシュナーの「コスチューム」には生鮮品、ゴム、ダチョウの羽、石、毛皮、イグアナの剥製など「ハプニング」にお馴染みの素材にならんで、家庭や、蚤の市、街中のゴミ箱から拾われた古着やテキスタイルの端切れなどが用いられた。スーザン・ソンタグは、「ハプニング」を「生命をもった絵画」と表現したが(注9)、クシュナーはこの考え方をテキスタイルやコスチュームに応用したと言える。さらに注目すべきは、アール・デコやコスチューム、テキスタイルという美術史では周縁的な要素が、「ハプニング」やパフォーマンスという前衛的な表現方法に組み込まれている点である。こうしたファイン・アートと装飾・応用芸術、身体芸術の有機的なかかわりは、モダニズムの「先駆者」たちの姿勢を思い起こさせる。「先駆者」とは前述のポワレやデュフィ、フラーであり、パッチワークで抽象的な造形を盛り込んだテキスタイル作品を制作したソニア・ドローネーや、絵画と同等の意識でテキスタイルやパフォーマンスに取り組み、夫であるハンスに影響を与えたゾフィー・トイバー=アルプらである。その多くが、純粋性を重視するモダニズムにおいて長らく周縁的な扱いをされてきた。クシュナーと同様にP&Dの中心にいたヴァレリー・ジョードンは次のように言う。私たちは「偉大さ(greatness)」に依らずに、「より良い(greater)」芸術を生み―106――106―

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