築装飾においては、例えば元老院での同時代の歴史化、施療院やリセでの施設の近代性の強調といった注文主の意向に応えるため、より明確な形で行われた。3.政治と宗教をめぐる葛藤公共建築装飾と政治、宗教の問題は不可分である。プティ・パレにおいて、ドニは大戦でのフランスの勝利を記念する主題〔図9〕を構想していたが、美術館に相応しい主題を求められ変更した(注28)。一方、元老院では「祖国(Patrie)の概念」を要求され先の案を転用する。完成作では旧約聖書『詩篇』のラテン語訳に由来する主題「正義と平和と接吻したり(justitia et pax osculatae sunt)(注29)」を、バリュエルが指摘する通りポントルモ《聖母の訪問》〔図11〕を思わせる身振りで描き、宗教的な要素を加えている(注30)。本作の依頼は、ドニが共鳴した政治団体アクション・フランセーズがローマ教皇から断罪を受け、脱退を表明した時期に重なる(注31)。自らの信仰と愛国心の両立が、命題となった時期であった。国際労働機関では、注文主側が「労働の尊厳」という中立的な題を与えることで、非キリスト教徒の反発を避け(注32)、施療院では、フリーメイソンの会員を含む評議会で慈愛の寓意像の背後に描かれた十字架が議論を呼んだという(注33)。パレ・デ・ナシオンでは「中立」を強調する国際連盟の意向に基づき「平和の作用」という抽象的な主題が採用された(注34)。しかし、ドニの主題は『詩篇』に基づく「汝の砦の内は安穏なれ(Fiat pax in virtute tua)(注35)」であり、秤を持つ正義の寓意像の左右に暴力と安寧を対比的に描く構成は、伝統的な「最後の審判」図像〔図21〕に重なる(注36)。1933年の「宗教芸術における主題」と題した文章で、ドニは「世俗の主題を扱っていても、広い意味での宗教芸術がある」という元ナビ派の宗教画家ヤン・フェルカーデの言葉に賛同しつつ(注37)、以下のように述べる。 外的主題(sujet extérieur)、つまり歴史的、寓意的、宗教的な知識を観客に要求する教義的主題(sujet dogmatique)というものが存在する。しかし真の芸術作品においては、この主題は常に、感性と知性に恵まれたすべての人の目に語りかけるもう一つの主題と結びついている。内的主題(sujet intérieur)、主観的主題(sujet subjectif)とでも呼ぼうか(注38)。さらに「内的主題を外在化する」手段として、「私が「祈り」を表現したい場合、―139――139―
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