鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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注⑴以下の図録の装飾作品目録を参照。Exh. cat., Maurice Denis: Earthly Paradice(1870-1943), ⑶ Fabienne Stahl, Les décorations religieuses de Maurice Denis (1870-1943) entre les deux guerres, Paris, Musée dʼOrsay, etc., 2006, pp. 280-85.⑵ Maurice Denis, Journal, t.Ⅲ(1921-1943), Paris, La Colombe, 1959, p. 214. 1932年のアカデミーthèse de doctorat, Université Blaise Pascal, 2009, p. 5.本能的に、すでにひとつの音楽、ひとつの宗教的な雰囲気を生み出しているある種のアラベスクや色彩を採用」し、「その形態や色点が祈りの観念を暗示するような構図を考案するだろう」と続ける。ドニは注文主の意向に沿う「外的主題」を描きながら、「内的主題」としての宗教的な観念を、人物の形態や構図に暗示的に込めたといえるのではないか。「キリスト教の画家であり、画家であることとキリスト教徒であることが不可分(注39)」であったドニにとって、何らかの教育的な寓意の表現を試みる際、キリスト教主題が想起されるのは自然なことであった。おわりに1898年のローマ滞在を契機とするドニの主題や再現的様式への回帰が晩年まで持続する背景には、継続的な公共建築装飾の受注も影響を与えたと考えられる。教会装飾と異なり、より幅広い観衆を想定した実践がさらなる可読性の重視に画家を導いたといえよう。しかし同時に彼は、自身の根幹をなす宗教主題を重ねることで、実感の籠った作品を生み出そうとしたのではないか。本稿では、ドニの公共建築装飾の全体像を捉えることを目的としたため、各作品の内容には大まかに触れるに留まった。また、ドニ自身が同時代や後世の画家に与えた影響についても十分に検討できなかった。稿を改め、より詳細な分析と広範な比較を行うことを今後の課題としたい。謝辞調査にあたり多大なるご協力をいただいた、モーリス・ドニ・カタログ・レゾネ編集室のMesdames Claire Denis, Fabienne Stahl, Marie-Claire Rodriguez、モーリス・ドニ美術館のMadame Gabrielle Montarnal、元老院史料室のMadame Stéphanie Sanna、リセ・クロード・ベルナールのMonsieur Francis Torresをはじめ、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。会員選出は、この立場を確実なものにした。―140――140―

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