鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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⑰ 伊藤若冲の鸚鵡図に関する考察研 究 者:城西国際大学水田美術館 学芸員  山 口 真理子1、はじめに伊藤若冲(1716~1800)は、鸚鵡が豪華な止まり木に佇む《鸚鵡図》を画業初期より手がけている。当時、外国産の鸚鵡は珍しく、鸚鵡と宙に浮くような止まり木のみを描く作品は先例がない。辻惟雄氏は、伝徽宗筆《架鷹図》にヒントを得た翻案と考えつつも、若冲の止まり木と鷹槊とは趣が異なることから清画に直接の原型といえる「架鸚鵡図」があるのではないかと推測している(注1)。鈴木京氏は、中国の装飾的に美化された架鷹図が発想の源泉であり、「鸚鵡と止まり木」をセットで記録し肖像的に演出する意識があった可能性を提示した(注2)。また、今橋理子氏は、楊貴妃が雪衣女という白鸚鵡に多心経を教えた故事との関連から「見立楊貴妃図」であり、さらに鸚鵡が極楽に棲む霊鳥と見做されてきた仏教的言説との関わりにも言及している(注3)。佐藤康宏氏は、皆川淇園らの詩から、止まり木に繋がれ隴山を懐かしむ鸚鵡を憐れむ解釈を示し、若冲が中国か朝鮮画を規範として忠実に複製することから始めたと推測した(注4)。確かに《鸚鵡図》は伝徽宗の白鷹を彷彿とさせ、伝徽宗画の中には若冲画とは形状が異なるが、蓮台や蓮華模様の止まり木も見られる(注5)。架鷹図を翻案した可能性、未だ見出されていない架鸚鵡図を写した可能性はあるだろう。しかし、若冲がそれらを源泉にしつつも、新たな創意を加えた可能性もある。筆者は、信仰心の篤い若冲が仏教と関わりの深い鸚鵡を主役として描いたことについて、仏教の観点からの考察が可能ではないかと考える。そこで本論では、従来あまり取り上げられてこなかった止まり木の装飾に着目し、そこに仏画的な表現が見られることを指摘する。加えて、仏教における鸚鵡の意味を改めて確認した上で、《鸚鵡図》の再解釈を試みたい。2、《鸚鵡図》概要絹本着色画の止まり木の《鸚鵡図》は以下の6点が知られている。草堂寺所蔵品(以下、草堂寺本)〔図1〕、『国華』1527号掲載の新出作品(個人蔵・京都国立博物館寄託、以下、京博寄託本)〔図2〕、『若冲画選』掲載作品(現所在不明、以下、画選本)(注6)〔図3〕、ボストン美術館所蔵品(以下、ボストン本)〔図4〕、イェール大学アートギャラリー所蔵品(以下、イェール本)〔図5〕、千葉市美術館所蔵品(以下、千葉市美本)〔図6〕である。他に鸚鵡が松に止まる図として、横幅《松に鸚鵡図》(ボス―181――181―

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