3、止まり木止まり木は、ABCグループごとにほぼ同じ形状である。Aの草堂寺本を見ていくと、赤色の横木には青と緑、金色が縞状に入り、花形の鋲が付けられている。支柱は緑色の如意頭と赤い玉が組み合わされ、中央に蓮華と象の横顔のような飾りが付き、先端が矛先のように尖っている。横木と支柱は唐草形の金具で接合され、鎖は鸚鵡の脚を捉えているのだろう。横木の両端には淡紅色の蓮台に青い餌猪口が載る。Bのボストン本では、餌猪口の下の横木が膨らみ、支柱の如意頭が繧繝彩色、中央の蓮華が青色、赤い玉に白いビーズ状の飾りが追加された。Cでは、横木の花形の鋲が青い八弁の花になり、鎖の左右に赤い房飾りが付く。さらに支柱は如意頭が増え、番蓮が加わり、先端が左右対称の湾曲形になった。イェール本の横木と如意頭の間には水色が塗られているが、千葉市美本はこの表現がなく、餌猪口の蓮台が緑色である。このような重厚な横木と精緻な支柱からなる止まり木は、他の絵画等には見出せず、実在したかは不明である。李巌《架鷹図》(ボストン美術館蔵)〔図12〕の赤色の横木に三又の支柱が付いた止まり木が近い印象を受けるものの、餌猪口はなく、支柱も若冲画に比べて単純である。近代の作例だが、佐竹永陵《楊貴妃調鸚鵡図》(明治32年〈1899〉頃)〔図13〕の止まり木も近い(注16)。横木は細く、餌猪口が下方に独立しているが、房飾りがある。若冲画の止まり木の矛先のような先端は、これらの図のように地面や長い支柱にさして使用するためのものかもしれない。若冲は既存の止まり木を参考にしながら、ある意図のもと豪華に加飾したのではないだろうか。止まり木の蓮華や如意頭の装飾、赤・青・緑・金の配色や繧繝彩色、左右対称の構成は、中国的かつ、仏画的である。若冲がこのような表現を用いた作例として、東福寺伝来の元または高麗仏画を忠実に模写し、《動植綵絵》とともに相国寺に寄進した《釈迦三尊像》(相国寺蔵)がある。色彩構成、釈迦の台座の八弁花や蓮華の装飾〔図14〕、菩薩の瓔珞〔図15〕、白象の飾り〔図16〕など、《鸚鵡図》の止まり木の装飾表現と通ずるものがある。《釈迦三尊像》は《鸚鵡図》より後の制作であり、直接の影響を指摘するわけではない。次に見るように、仏教において鸚鵡が特別な存在であることを意識して、若冲は止まり木にいわゆる仏画的表現を用いたのではないかと考える。4、仏教における鸚鵡『阿弥陀経』では極楽の光景が次のように説かれている。七宝の池に青・黄・赤・白色の大輪の蓮華が生じ、「常に種種の奇妙・雑色の鳥あり。白鵠・孔雀・鸚鵡・舎―183――183―
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