鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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注⑴西洋中世における『雅歌』および『雅歌』註解についてはE. Ann Matter, The Voice of My Beloved: The Song of Songs in Western Medieval Christianity, University of Pennsylvania Press, 1990; Friedrich Ohly, Hohelied-Studien. Grundzüge einer Geschichte der Hoheliedauslegung des Abendlandes bis um 1200, Franz Steiner, 1958参照。⑵「閉ざされた庭」をはじめとした植物表現と『雅歌』の中世美術への影響についてはMargarethe Schmidt, Warum ein Apfel, Eva?: Die Bildsprache von Baum, Frucht und Blume, リヒ2世とクニグンデという聖なる夫婦のパトロンの存在があったからこそ成し遂げられたのではないだろうか。そのテーマ性が13世紀の聖堂彫刻にも反映されていることから、バンベルク大聖堂における〈バンベルク雅歌註解〉の意義はこれまで評価されてきたよりも大きいものであると推測される。先行研究でなされてきたように他の写本挿絵との比較だけではなく、中世美術における異なるメディア間の相互のダイナミックな関係性を考慮すると、写本と彫刻は補完的な役割を演じていることが理解される。つまり、バンベルク大聖堂独自の伝統を彫刻を含めた広い視野から顧みることが重要であるだろう。また、当写本と同じく11世紀に制作されたバンベルク大聖堂の宝物に、現存する世界最古のラツィオナレ(司教の祭服)〔図13〕がある。ハインリヒ2世からバンベルク司教への贈り物であり、青い絹地の上に金糸の刺繍が施され、表面に『雅歌』の図像、裏面に『黙示録』の図像が表現されている。表面の『雅歌』では、中央に平和をもたらす王として、愛を擬人化したキリストがソロモンの寝台の上に座す姿が描かれている。本ラツィオナレは、バンベルク大聖堂のもっとも貴重な二つの宝物である〈バンベルク雅歌註解〉と同じくライヒェナウ派による〈バンベルク黙示録〉(バンベルク州立図書館所蔵、Ms.Bibl.140、1000年-1020年頃)に即して、同時期に制作されたと考えられている(注17)。この作品に表された『雅歌』と『黙示録』という題材は、終末の舞台を表現した「君侯の門」に引き継がれており、バンベルク大聖堂でまさにこのような花嫁神秘主義の主題性が重要であったことの証左となっている。付記2023年4月18日にアメリカ、ケンブリッジで開催されたハーバード大学大学院美術・建築史研究科における報告会にて、本調査研究の成果の一部を口頭発表した。アメリカでの調査研究に助言をいただいた、同大学のジェフリー・F・ハンバーガー教授に謝意を表したい。―207――207―

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