② 環浜名湖文化圏における仏教文化の基礎的研究研 究 者:浜松市美術館 学芸員 島 口 直 弥1 研究目的報告者は勤務館にて「みほとけのキセキ─遠州・三河の寺宝展─」(令和3年(2021)、以下「みほとけ展」)を企画し、遠州地域に伝わる平安・鎌倉時代の仏像を展示した。コロナ禍の短期開催であったが、約2万3千人を動員し、来館者に仏像の造形的な魅力や歴史的・文化的意義を示すことができた。一方、みほとけ展に出展した仏像は、国・県等の文化財指定を受け、その価値が既に周知されている作例が多く、未確認・未調査の作例、最後の確認・調査がされてから情報更新のない作例を含めて研究対象を広げる必要性を感じた。本研究は、遠州地域に所在する作例の実地調査を通して、未確認・未調査の仏像の基礎的な情報、存在が周知されている仏像の新たな情報等について体系的にデータベース化し、更新を図る。また、データベース掲載の仏像や仏教文化圏の様相について分析・考察を行う。さらに、近隣地域の作例、浜名湖の周辺と同様に静岡県内外の水辺に栄えた仏教文化圏との比較を通して、浜名湖を中心とした遠州地域の平安・鎌倉時代の仏像の傾向や仏教文化圏の特徴を浮かび上がらせる。2 遠州地域の仏像データベースの構築仏像データベース〔表1〕は、遠州地域に伝わる仏像の基礎的な情報を掲載したもので、遠州地域の平安・鎌倉時代の仏像について、市町域を越えて総合的に整理した初の基礎的資料である。ここでは、本稿で初めて詳細な紹介がなされるものと思われる作例、本研究を通して一定の情報更新が図られたといえる作例の一部を紹介する。⑴ 長福寺・阿弥陀如来坐像〔図1〕長福寺は、三遠国境間近の浜松市北区引佐町的場の山間に所在する。現在は廃寺で、仏堂のみが残る。仏堂には、等身大の阿弥陀如来坐像1躯を中心に、約3尺の四天王立像4躯(江戸時代か。ただし、多聞天立像のみ作風と像高が異なる。)等が安置される。阿弥陀如来坐像は寄木造で、頭体幹部を針葉樹と思われる二材を正中で矧ぐ。円満で穏やかな面相部、浅い衣文の彫り、量感と誇張を抑えた肉体表現は、定朝様式を踏襲している。衣文の彫りは形式化が進んでおり、12世紀後半の作例と推定される。─遠州地域に伝わる平安・鎌倉時代の仏像を中心に─―12――12―
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