鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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(※引用にあたり原文中の旧字は新字に、旧仮名遣いは新仮名遣いに改め、割注は( )で記した)。着色心得 ○古代色一 矢車 矢砂共云(当時矢車越幾斯ナルモノ製出シテ尤モ便ナリ) 渋木(桃皮共云是モ又渋木越幾ナルモノアリ) ○紫竹色一 矢車 茜根(或茶粉) 録礬 ○施色一 丹柄(丹皮共云) 矢車 茶汁(俗に晩茶ト云時々加ヘテ年中消渇セサルヲ用ユヘシ) ○補裨色一 梔 蘇木 黄柏文中に見える「矢車」とは矢車附子(ヤシャブシ)という落葉性小高木ことで、松笠状の実が茶色・灰色・黒色系の染色の材料となる。「渋木」は楊梅(ヤマモモ)の樹皮で、黄色や黒色系の染料である。「茜根」は茜草(アカネ)の根で赤紫系の染料。「録礬」は緑礬であり、硫酸第一鉄という鉱物で媒染剤として使用される。「丹柄」は紅樹(ヒルギ)の樹皮で、赤茶色、黄茶色の染料、「茶汁」は文字通り茶葉の煎汁で、茶色の染料である。また「梔」は梔子(クチナシ)で果実が黄色の染料となり、「蘇木」は蘇芳(スオウ)の木の芯材で赤系の染料、黄柏は黄檗(キハダ)の樹皮や生葉を材料とする黄色の染料である(注9)。これらはいずれも、自然界に存在する植物や鉱物に由来する天然染料で、日本で古来より使用されてきたものばかりである。しかし、このたび新たに発見した明治31年(1898)刊行の『発明製法全書』中の「象牙着色法」では、インジゴ、ポットアスなど化学染料や化学薬品や、オールド・フスチックなどの明治期に輸入が始まった天然染料などの登場が確認できる(注10)。該当箇所を以下に引用する(※引用にあたり原文中の旧字は新字に改めた)。○象牙着色法  (前略) 象牙を青色に染むる法―225――225―

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