象牙を硫酸「インチゴ」及び「ポッタース」を混和したる稀薄溶液中に投入する事暫時にして青色となる 又法硫酸銅の強溶液中に浸すも可なり 象牙を紫色に染むる法象牙を「コロール化金」の弱き中性溶液中に浸し暫時にして採出し日光に晒せば紫色となる 象牙を黄色に染むる法象牙を硝塩酸錫を以て拭い次に「フヲスチック」樹の煑汁中に投入加熱し此加熱汁中に「ブラジル」樹少許を混和すれば橙黄色となる 又法象牙を十八時乃至二十四時間中性「コローム」酸「ポッタース」の強液中に浸し置き、而后沸煑したる醋酸鉛溶液中に暫時投入し取り出せば其黄色最美なり 又法象牙を水半「ガルロン」明礬一「ポンド」より成れる明礬水にて煑而して後姜黄半斤真珠灰四分の一斤を水一「ガルロン」にて煑たる液中に投し暫時にして採出し再び明礬水中に投ずれば可なり文中の「インチゴ」は合成藍のインジゴと思われる。かつて藍染に使用する藍は天然藍の葉に含まれる色素であったが、19世紀末にドイツで人工的に合成された合成藍が完成すると、急速に世界中に普及した。「ポッタース」はポットアス(炭酸カリウム)で、染色用助剤として用いられる。従来は木灰の濾汁から製造したが、明治期になると化学薬品が導入され、置き換わった。なお「フヲスチック」樹はオールド・フスチックと呼ばれる黄色系の植物染料で、日本には明治初頭に輸入された。「ブラジル」樹はブラジルウッドのことで、心材からブラジリンという赤色の色素が得られる。「コローム」酸はクロム酸と思われ、強い酸化剤で木材・骨・象牙の黒染に用いられる。さらに大正13年(1924)に刊行された『実用家庭科学』にも、「象牙の着色法」と題する記述を見出した(注11)。該当箇所を以下に引用する(※引用にあたり原文中の旧字は新字に改めた)。―226――226―
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