象牙の着色法(一)黒…垢や油気をよく取り去ってから硝酸銀の濃い溶液に数時間浸し、一度乾かしてから硫化アンモニウム液につけます。(二)褐色…黒と同様にやるのですが、只硝酸銀をごく稀薄にして用いるのです。(三)藍…丹礬(サルフェートオブカバー)の濃い液体に浸すか、若しくはペレンス(プロシアンブリー)の液に浸してもよろしい。(四)緑…緑青を酢に溶かし、思う色の出るころまでこの溶解液で煮るのですが、器具は土鍋を使用しなければなりません。(五)赤…赤いインキ中に十分着色するまで浸すか、或は、染色用に用いる錫箔粘着剤(ティンモーダント)に浸してからコチニールにつけます。(六)深紅色…赤と同様ですが、只コチニールの代わりにラック染色素を用いればよいのです。(七)紫…金の三化物(タークロライドオブゴールド)の稀薄溶液に浸してから日光に曝らします。(八)菫…錫箔粘着剤に浸してから蘇木(ロッグウッド)を煮出した液に浸します。(九)黄…一ギャロンの水に一ポンドの割に溶かした明礬液で煮ます。それから半ポンドのターマリックと四半ポンドの粗製炭酸加里を一ギャロンの水に混ぜて煮た溶液に三十分間浸し、再び明礬液につけます。 この象牙着色法は、角類や骨類に無論有効なものです。前掲の『発明製法全書』では青・紫・黄の3色であったが、『実用家庭科学』では黒・褐色・藍・緑・赤・深紅・紫・菫・黄の9色の着色法が紹介されている。黒・褐色は硝酸銀(銀の硝酸塩、有機物に触れると還元されて銀を析出し黒色となる)、藍は丹礬(胆礬)と呼ばれる硫酸銅(銅の硫酸塩で青色顔料)、またはペレンスはプルシアンブルー(18世紀初頭にドイツで発明された人工の青色顔料)、緑は緑青(銅または銅合金の表面に生じる緑色の錆で、古来より緑色顔料として使用される)、赤色の項にみられるティンモーダントのモーダントはモルダント、つまり媒染剤のことで、コチニールは中南米原産の昆虫・臙脂虫から得られる赤色の染料。深紅色の項のラック染色素とは、ラック(紫鉱)のことで東南アジアなどに生息するラックカイガラムシの分泌物が紫色の染料となる。紫の項にみえる「金の三化物(タークロライドオブゴールド)」は、テトラクロリド金(III)酸(四塩化金酸とも呼ばれる)と思われ、その水溶液は橙黄色だが、光をあてると分解して表面に紫色の金コロイドを析出―227――227―
元のページ ../index.html#237