鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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注⑴「超絶技巧!明治工芸の粋」展は三井記念美術館(会期:2014年4月19日~7月13日)を皮切りに、佐野美術館、山口県立美術館、郡山市立美術館、富山県水墨美術館、岐阜県現代陶芸美術館を巡回した。・関芳泉「富有柿」 個人蔵 〔図11〕幅25.2cm 奥行14.5cm。無銘。本作を収める箱の蓋裏に「昭和四十二年四月/関芳泉」の墨書と「芳泉」の朱文長方印が確認できる。関芳泉(生没年不詳)は高木芳真の弟子で、昭和51年頃までに没したと推測される(注20)。上記のうち中川竜英、中川寿雄、吉村竜渓はともに金田兼次郎の門人であり、緑山と直接的な技術交流があった可能性がある。とくに中川寿雄の「栗に銀杏椎の実牙彫置物」の実物に肉薄する彫技や彩色に加え、別々に彫った部材を組み合わせて一塊の置物とする構造も、緑山の牙彫に共通する。高木芳真と関芳泉は緑山とは師系が異なり、彫技と彩色に大らかさが認められる。しかしながら、これらの作例によって「着色法を一切秘密にし、後継者も持たなかったため一代で途絶えてしまった」とされてきた緑山に関する言説を見直す必要が出てきた。今後は緑山以外の作者にも調査対象を広げ、その履歴や作例の情報を収集して、近代における彩色牙彫の実態とその意味を解明していきたい。⑵中村雅明「超絶技巧の世界①象牙彫刻」『目の眼』179号、1991年9月⑶小林祐子「安藤緑山の牙彫─研究序説として」『超絶技巧!明治工芸の粋』、浅野研究所、2014年、小林祐子「牙彫師・安藤緑山─作者銘と委嘱家、受容者などの問題について」『驚異の超絶技巧!─明治工芸から現代アートへ─』、浅野研究所、2017年、小林祐子「〔資料紹介〕安藤緑山の履歴に関する新知見─遺族への聞き取り調査を通して─」『三井美術文化史論集』第8号、三井記念美術館、2018年、小林祐子「牙彫師・安藤緑山の研究」『國華』第1491号、國華社、2020年1月⑷高村光雲『光雲懐古談』萬里閣書房、1929年、196頁⑸『近代アート・カタログ・コレクション 日本美術協会』第8巻、ゆまに書房、2001年、116頁⑹前掲注⑵、54頁⑺日髙真吾「安藤緑山作「染象牙果菜置物」・「染象牙貝尽し置物」の蛍光X線分析」『超絶技巧!明治工芸の粋』、浅野研究所、2014年⑻相馬邦之助『象牙彫刻法』吉田金兵衞/武田傳右衞門、1889年序、乾巻17丁表⑼『原色染織大辞典』、淡交社、1977年を参照⑽米岡稔・吹田秀雄『発明製法全書』集文館、明治31年、17~18頁⑾山本正三『実用家庭科学』実業之日本社、1924年、298~299頁―230――230―

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