鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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主題・モチーフ〔図1〕全73点の分類調査を行った結果、太陽とともに登場する具象モチーフは海洋モチーフ(イルカ、魚、タコ、イカ、貝)、動物(ライオン、牛、鹿、ヤギ、犬、鳥、ハチ)、人物(男女)、空想上の怪物(グリフィン、スフィンクス、ミノタウロス、ミノア風ゲニウス、ミノア風ドラゴン、鳥頭女神)(注8)、シンボルや祭具(双斧、植物、水差し)が認められた。これらのモチーフは主に4つの主題(または構図)で表される。すなわち、①単体又は複数の太陽のモチーフと単体の具象モチーフの表現。②太陽モチーフと、複数の具象モチーフが左右対称又はテート・ベーシュに配された紋章風の構図。③動物の狩りの場面。④礼拝などの宗教場面である。地域・年代・印材これらの場面が表された印章を地域、年代、印材の観点で分類したところ、クレタ島から38点、ギリシア本土から33点、その他の地域から2点となった〔表2〕。クレタ島には38点の作例が該当し、ほとんど(33点)がミノア文明の中心、クノッソス宮殿が位置する中央クレタのものである。ミノア文明が最盛期を迎えた新宮殿時代には全体の4/5(30点)が認められた。ライオン、イルカやハチなどが左右対称やテート・ベーシュに配置された紋章風の象徴的な構図で表される。印材は軟硬の石材で等しく認められ、モチーフや構図において両者に変化はない。太陽と単体モチーフが1つずつ配される構図において、ライオンは軟硬石両方の印章で表されるが、海洋モチーフと怪物は硬石製印章、鳥頭女神を含む女性像と牛頭は軟石製印章に認められ、軟硬の石で主題の選択が認められた。この傾向は最終宮殿時代まで続き、怪物は硬石製印章で表されている。宮殿後の時代になると、スカートのような衣装を身に着けた女性が法螺貝のようなものを祭壇の前で吹く宗教場面(CMS II,3 no. 7)や、左右対称性のある構図に2頭の神の従者のグリフィン(注9)が一頭の鹿を狩る情景が表される(CMS II,8 no. 192)。この図像は印影に認められるが、表面のテクスチャーから希少性の高い金属製印章によるものと分かるため、印材と主題の両方から社会的に高い身分の者と関連すると思われる。他方、ミケーネ文化の栄えたギリシア本土の33点は、北ギリシアのケルキラ〔図2〕から27点と圧倒的な数量が確認され、その2/3が新宮殿時代のものである。クレタと同様、海洋モチーフや動物、怪物がメノウなどのエーゲ世界で容易に入手できる硬石製、女性と牛頭は軟石製印章に表され、印材により図像の選択が認められる。―259――259―

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