《タイム/タイムレス/ノー・タイム》(2004)とが不可能である、ということを示唆しているのかもしれない。こうした考えは、2004年に完成した地中美術館のインスタレーション作品《タイム/タイムレス/ノー・タイム》において、更新されている。というのも、以下で分析するように、本作では、そうした根本原理(球)に外部世界が埋め込まれ、一体化しているからだ。安藤忠雄によって設計された地中美術館の大空間を用いた本作品は入り口から階段状に上がっていく構造となっている。中腹には、直径220センチの花崗岩の球が配置され、その周囲を取り囲むように展示室の側面を、《見えて/見えず 知って/知れず》でも用いられた三角柱、四角柱、五角柱をセットにしたオブジェが配置されている。しかし、本作では、三種類の柱がそれぞれ順列的に組み合わせられた(3×3×3=)27個の互いに異なるオブジェが用いられている〔図6~8〕。この空間に入ると、球体とオブジェが生み出す厳格な秩序性によって、時間が静止しているかのような印象を受ける。さらに、個々のオブジェの差異も比較的容易に認識することができるため、これらの中に規則性や関連性を見出そうとしてしまう。デ・マリアが数学的な規則性を用いることはよくあったものの、それらはあくまでも、作品の外側から観察者が見るという構造をもっていた。しかし、本作では、これらのオブジェに取り囲まれているため、鑑賞者が観察対象の内部にあたかも入り込んでしまったかのような感覚を覚える。しかし、この空間にしばらく滞在すると、天井から差し込む光が変化し、それによってオブジェの表面の反射も変化するのに気づく。こうした時空間的な変化は、鑑賞者の知覚を活性化すると同時に、数学的な規則や原理といった不変性を強く喚起する球とオブジェに対して、相反するような効果を生み出している。つまり、このインスタレーションでは、不変性を喚起する形態と、自然現象という変化に富んだ要素が一つの空間のなかで一体化しているのだ。こうした構造を考える上で、中央に設置された球の表面の反射という視覚効果も重要な役割を果たしている。この球は滑らかに磨かれているため、石の模様の詳細を見ようとすると、表面に映る周囲のイメージを見ることにもなる。とくに、鑑賞者が移動し、見る角度が変化すると、表面に映るイメージも全面的かつ動的に変化し、外部の世界があたかもこの球の内部に取り込まれているかのように感じられるのだ。外部世界が、観察する対象のなかに見出されるような構造は、上述したように、本―288――288―
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