鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
400/604

【龍王礼拝型】半の作か。●個人蔵本本作は未見ではあるが、『白隠禅画墨蹟』に載る(注4)。本紙縦118.8cm×52.4cmの紙本淡彩。縦長の画面の下端に口を開けた大蛤を配し、そこからうねる様に立ち上がる蛤が吐く気から、水波打ち寄せる岩上の蓮華座に半跏する観音を描く。左脚を蓮華座に踏下げ右脚を垂下脚の膝の上に乗せる半跏の姿勢や、両手で鉢と楊柳を捧げ持つ姿、蛤が吐き出す蜃気楼の如く荘厳な岩座などの図様は、禅叢寺本と非常によく共通する。関防印はなく、「白隠」(朱文龍形香炉印)、「慧鶴之章」(朱文方印)の落款印のみ認められる。画風や朱文龍形香炉印の尾(70代後半以降、龍の尾が切れる)の欠損がないことから、60代後半から70代前半の作と考えたい。大蛤の吐き出す気から出現した観音と、龍王を筆頭とする擬人化された海洋生物を組みあわせて描く。観音の持物はそれぞれ異なり、鉢と楊柳を両手でささげ持つもの、左手に巻子を持ち右手でその紐の結びを解こうとするものもあれば、禅定印を組むものもある。●松蔭寺本〔図7〕画面右下隅の大蛤がわずかに口を開け、そこから吐き出された気から、蓮華座に坐す観音が出現する様を描く。観音はやや背を丸めて蓮華座に坐して禅定印を組む。観音の足元には、龍を背負い宝珠を観音に捧げる龍王、タツノオトシゴを背負う龍女、その他に蟹、巻貝、二枚貝、蛸、海老、山椒魚、烏賊、ヒトデなどを頭上に乗せた人々が、合掌しながら観音を仰ぐ。その中には、大きな鼻と見開かれた目を持つ異形の者も紛れている。印は関防「臨済正宗」(朱文長方印)/「白隠」(朱文方印)、「慧寉之印」(白文方印)を捺す。賛は「はまぐり身得度者 即現はまぐり身而為説法」。画風や賛の書体から60代後半の作と考えられる。●會津本〔図8〕画面右隅の大蛤が吐き出す気から観音が出現する様を描く。観音は右脚を蓮華座に踏下げ、左脚は衣に隠れているがおそらく垂下脚の膝の上に乗せた半跏の姿勢をとり、両手で鉢と楊柳を捧げ持つ。観音の周りには、大きな龍を背負い合掌する龍王と龍女、龍杖を持つ僧形の人物、その他に大山椒魚、蛸、海蛇、巻貝、海老、亀、蟹などを頭上に乗せた合掌する人々が描かれる〔図9〕。そ―390――390―

元のページ  ../index.html#400

このブックを見る