のが、1286年に第一版が完成し、その後1296年まで第二版の編集が行われた『聖務の理論』である。次に『聖務の理論』の概要について観ていきたい。同書は全八巻構成からなり、まず教会そのものの概念および、聖堂の各部分や備品に関する注釈、そして献堂式の解説が書かれる(一巻)。続いて、聖職者の位階やそれに関する典礼(二巻)、祭服やその他典礼用品(三巻)、ミサの中の様々な言葉や仕草の注解(四巻)、聖務日課(五巻)、主日と祭日(六巻)、聖人の祝祭日(七巻)、そして暦とその計算法(八巻)についての、解釈や時代背景などが事細かに説明される。同書は主に聖職者教育のために書かれたもので、現代では「典礼注解書」というジャンルに属するとされ(注3)、基本的には先行する様々な典礼注解書の解説を集成したものである。西洋中世世界では17世紀に至るまで広範に流布し、強い影響力を持ったことでも知られている。現在確認されている写本は139点あり(注4)、印刷本は16世紀初頭の段階ですでに44版を重ね、同時期におよそ2万部刷られたと推測されている(注5)。② 教会建築の神学的解釈の実際次に教会建築の神学的解釈が、具体的には何を対象として、またどのような形で行われたのかを、いくつかの例と共に見ていきたい。ドゥランドゥスの典礼解釈は、個々の動きやそれに参与する聖職者の位階の説明に先立つ形で、まず空間の問題を扱う。彼にとって建築空間は典礼の重要な構成要素の一つをなす。彼は四巻で典礼の諸要素として、「人」(in personis)、「言葉」(in uerbis)、「働き」(in operibus)、そして「事物」(in rebus)の四つを挙げ、それらすべてに神に由来する神秘が満ちているとしている(注6)。この四要素は、それぞれが更に三種類に分けられる。その中でも特に「物」は、装飾(ornamenta)、道具(instrumenta)、諸構成要素(elementa)に分類され、教会建築はこのカテゴリーに属すると考えられる。建築や建築内の装飾を主題とするのは、先述したように第一巻である。まず一章では教会建築とその設備、二章では祭壇、三章では教会内に備えられた絵画の図像的解釈、垂れ幕や教会内の装飾について、四章では鐘、五章では墓地、そして六章では献堂式の解釈が行われている。次に特に一章の教会建築とその部位について、より具体的に解釈対象を見ていく。まず彼は、「教会」という言葉がもつ二重の意味を説明する。つまり「教会」とは、「キリスト教の信徒の集団(教会共同体)」という精神的な意味合いと、それを収容する建築空間という物質的な意味合いをもつのである。続いて、教会を指す様々な用語を―400――400―
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