鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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宙全体、人間の魂など、この世界全体を象るものと考えた(注17)。また七世紀ごろから、建造された教会建築を聖なるものとする儀式、つまり献堂式の典礼文が整備されてゆく。献堂の際のセレモニーはすでにエウセビオスの段階で確認ができるが、こうした儀礼の中で、教会建築の様々な特徴な寓意的説明などを含む説教などが書き残されるようにもなった。こうした流れの中で教会建築は、建築空間そのものの宗教的かつ社会的な重要性を高めてゆくこととなる。研究者D. Iogna-Pratは、教会建築が「モニュメント化」された時期を13世紀に設定し、そのメルクマールの一つに『聖務の理論』を位置づけているのである(注18)。さて、今回扱った『聖務の理論』が属しているところの「典礼注解書」は、こうした典礼解釈の流れを踏襲しつつも、独自の特徴を持つ文書群である。直接的な基礎とされるのは、8世紀のアマラリウスによる『典礼学概論』である(注19)。典礼に対するアマラリウスの寓意的解釈は物議を醸し、様々な批判を生み出すことになるが、一方で後世に強い影響を与えることになった。そして11世紀末から14世紀にかけて、文献学的に強い依存関係を持つ、様々な典礼注解書が書かれるに至る。ドゥランドゥスによる教会の象徴的解釈は、アマラリウスの記述からも影響を受けつつも、直接的にはシカルドゥスの『ミトラレ』、ホノリウスの『霊魂の宝玉』、また擬フーゴの『教会の神秘について』に多くを依っている。これはドゥランドゥス自身が、創意を凝らした書物を執筆するのではなく、あくまで当時の聖職者たちが知っておくべき必要のあることについてまとめるのを目指したが故である。同時に、新しいものよりも、古典性(antiquitas)や普遍性(universitas)を重要視する中世キリスト教世界の心性が反映しているものとも言えるだろう。しかしドゥランドゥスによる古典性の継承は単なる旧来のもののコピーではなく、様々な伝承が合流し、集成され、また解説が加えられることより、詳細で複雑化されることとなった。アマラリウスの段階ですでに見出されたシンプルかつ散発的な教会建築解釈は、シカルドゥスやドゥランドゥスらによって、典礼の解説のまさに冒頭に据えられ、教会建築自体が典礼の象徴解釈理論に組み込まれ、読み解かれる対象とされていったのである。むすびとひらき本稿ではドゥランドゥスの『聖務の理論』の概要、その教会建築解釈、そして象徴解釈理論と、思想的・教会史的文脈について概観した。教会建築解釈は聖書解釈の理論を下敷きにし、その象徴性は典礼の一部をなすものとして考えられてきた。またそ―406――406―

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