ケットの記録や、国立博物館所蔵品をはじめとした現存作品のサイズや重さ、製作地などを示しながら、初めて体系的にスカンジナビアにおけるリュイユの歴史と技法を解説し、文様を分類している。ここでリュイユの技法を簡単に確認しておくと、経糸・緯糸・パイルで構成され、表面もしくは両面に、短く切った糸を経糸に結んだノット列を作る〔図2〕。この技法はトルコなどで見られる絨毯と似ているが、ノット列の間に緯糸が多く通されることで、リュイユの方がその間隔が広くなっている〔図3〕(注2)。シレリウスの著作では、ノットの織り方にはバリエーションがあることが図解され、図中のgが一般的だとされる〔図4〕。素材は、16世紀にはウールが主で、例外的に麻が使われることもあるが、その後17世紀頃には、経糸に植物性繊維や亜麻、麻やコットンが一般的に用いられるようになる(注3)。リュイユは、ノットに用いる色の配置によって模様を表している。シレリウスによる模様の分類を参考に列記すると、繰り返される幾何学模様〔図5〕、自由な配置の幾何学模様(四角形、菱形、十字と菱形)、花車とハート、木のモティーフ(中央フィンランド、配置の変化、サタクンタ地方の連なる楕円、1本の木、3本の木、2本の木、4本の木、多数の木)、チューリップリュイユ(3本のチューリップ、ジグザグ縞模様のチューリップ、2本のチューリップ、回転するチューリップ、ふるいと花車、種々のチューリップ)、パルメット、バロックとロココ(瓶花、ダブル・ハート、ロココの華輪、ライオンと鹿)、グスタフ一世(炎もしくは花輪、ストライプ)、サンプラー・リュイユ(カーネーション、リース、鉢植え、様々な模様)、花模様リュイユ、ロマン主義リュイユ、ピクチャー・リュイユ、希少な模様(人物、動物、花瓶と王冠)、縁飾り(縁飾りなし、無地の縁、ストライプ、四角模様、十字・ふるい・S字・花車・ハート、菱形、ジグザグストライプ、平行線、星、六角形と小さな円、パルメット、ジグザグ花輪と短い葉と花など)となる。ちなみに、それぞれの模様で、例えば刺繍のサンプラーのように、その典拠についても検討している。こうして、フォーク・アートとして、いわゆるオールド・リュイユについての体系化がおこなわれていった。一方で、後述するフィンランド手工芸友の会のように、同時代には新たな作品も制作されており、1933年には国際展におけるリュイユの初めての受賞として、ミラノ・トリエンナーレでエヴァ・ブルンメル(Eva Brummer)が金賞を獲得している。1937年のパリ万博では、ブルンメル及びウフラ=ベアタ・シンベリ=アールストロム(Uhra-Beata Simberg-Ehrström)の受賞、その後1950年代のミラノ・トリエンナーレでは、1951年にブルンメルやキルスティ・イルベスサロ(Kirsti Ilvessalo)などが―410――410―
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