受賞したのを始めとして毎回受賞者を出し、1960年代にかけてリュイユは国際展での受賞を重ねていった。1930年代の終わり頃から、絵画的で自由な構図のほかぼやけた輪郭線やグラデーションがリュイユのデザインに取り入れられた。巧みな色彩や色調の効果を生かしたこうした作品は、ヴァローリ・リュイユ(Valööriryijy)という新しい言葉で呼ばれるようになる(注4)。1971年に出版されたアンニッキ・トイッカ=カルヴォネンによる『リュイユ』では、こうした「新しいリュイユ」の動向について、1900年パリ万博でのガッレン=カッレラのデザインを「発端」として、「古典主義、キュビズム、機能主義」など流行の様式と模様の展開に触れて、その後の個人作家の誕生とそのデザインの成熟を取り上げている(注5)。シレリウスによる「オールド・リュイユ」の歴史を、シレリウスが取り上げなかったガッレン=カッレラを転換点に据え、一連の歴史として引き継ぐ立場をとり、同時代の作家の作品をリュイユの新しい動向、つまり「アート・リュイユ」として位置付けたと言える。さらに、2009年に行われたヘルシンキのデザイン・ミュージアムにおける「リュイユ!フィンランドのリュイユラグ」展では、民俗的/模様/色と表面/自由なかたちという区分のもとで、1990年代までの作品を出品している(注6)。これは、基本的には前述の先行研究を踏まえたもので、オールド・リュイユから、ガッレン=カッレラを経て、個人作家へと展開するリュイユの歴史記述を継承しつつ、1970年代以降に顕著となる造形の多様化を、その後の動向として加えたと言えるだろう。ただし、シレリウスの著作やその意義、またその後の影響についての検証や、初期個人コレクションについても触れられているほか、近年の作品については、リュイユから「テキスタイル・アート」へという視点を提示している。2.トゥオマス・ソパネン・コレクションの位置付けここで今回作品調査の対象とした、TSCの位置付けを確認しておきたい(注7)。トゥオマス・ソパネン氏は、現在650点以上のリュイユを所蔵し、その数は日々増加している。彼が最初にリュイユをコレクションしたのは、幼少期の個人的な思い出を除けば、アンティークショップで自邸のリビングに合うリュイユを偶然見つけた1997年のことである。室内装飾として何点かのリュイユを購入し、2005年にはヘイノラ・ミュージアムから依頼を受けて27点のリュイユを展覧会に出品した。この時、美術館に一堂に会したリュイユを見て、ソパネン氏は改めてリュイユの魅力を認識したという。同時に重要なのは、コレクション形成において助言を受けることになるタン―411――411―
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