ペレ・ミュージアムのレーナ・ヴィルバリと知り合ったことである。これ以降ソパネン氏は、文献を参考に、ヴィルバリと意見を交わしながら作品を収集するようになり、歴史的位置づけや各作家の特徴を考慮した体系的なコレクションを目指すようになった。2008年には、約200点のコレクションから89点をバルカウスの美術館で展示し、その後フィンランド国内を巡回した。2013年にブダペストで展覧会を開催した時には、コレクションは361点に成長していたという(注8)。ソパネン氏は、ヴィルバリとの共著を2008年の展覧会に合わせて刊行している(注9)。同書にはTSCの18世紀から現代までの作品を掲載し、まずリュイユの歴史について、生産団体やマーケティングによる工業化なども視野に入れながら通史として説明し、その上で個別の作品図版と解説を掲載している。作品は「庶民及び上流階級のリュイユ(1778~1900年)」と「室内装飾としてのリュイユ(1900~2008年)」という、大きく2章に分けて掲載されており、前者は模様ごと、後者は年代で区切って作家ごとに作品を分類している。模様ごとの分類は、菱形模様から点模様に幾何学的な模様が次第に単純化されていく展開を示したり、「チューリップ模様」〔図6〕や「生命の樹文リュイユ」など、シレリウスによる分類を踏襲する項目もみられる。後者の年代による区切りは、トイッカ=カルヴォネンによる区分を踏まえたと思われ、「発端」にあたるヴァイノ・ブロムステッド(Väinö Blomstedt)などの作品を掲載する1900~1920年/「古典主義、キュビズム、機能主義」に対応するような1920~1940年/「新しいリュイユ」と言えるブルンメル作品などの1940~1970年/立体的な表現の作品などの1970~2008年という区分がされる。個人コレクションのため、同書刊行時点での所蔵の有無に起因する内容の制約については考慮して参照する必要があるが、先行研究を踏まえたコレクション形成が窺える。TSCの最大の特徴は、18世紀から現代までの作品をリュイユとみなし、一括のコレクションとしていることである。1970年代以降テキスタイル・アートは、用いられる素材や技法、スケールなどが多様化して表現の幅が広がり、壁面を離れて自立的に成り立つ作品なども制作されるようになった。彼女/彼らの作品を、リュイユの歴史の一端として、フォーク・アートをもとにシレリウスが描いた枠組みの延長に位置づけられるのかは客観的な判断が難しい。逆に言えば、TSCは実際に作品をコレクションとして選択することによって、現在進行形でリュイユの歴史の更新と体系化をしているとも言える。本稿ではこうしたコレクションの特性を踏まえた上で、便宜的にこれを現代まで含めた「リュイユ史」とし、次章からはより具体的に作り手と技法について見ていきたい。―412――412―
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