意図を汲み取る色彩感覚が求められた。つまりこうした色彩表現を重視した作品では、織り進めながらデザインを再現できる色の糸を選ぶこととなり、一つのノットに複数の色糸を組み合わせている。オールド・リュイユのように具体的な模様を織り出すためには、模様の輪郭線を異なる色の配置によって表すことを思うと違いがよく分かるだろう。織り機に向かう織工の横でデザイナーが一緒に糸を選び、相談しながら作業を進める様子も記録写真に残されている(注13)。シンベリ=アールストロムの《緑の朝》の裏面には、SKYのタグが付けられている〔図7、8〕。デザイナーの署名及びデザインした年と併記されるのは、ピルッコ・シルフォス(Pirkko Sillfors)という織工の名前と製作年である。職員録によると、シルフォスは1949年から1955年及び1957年から1991年という41年間に渡りこの仕事に従事した(注14)。しばしばデザイナーは特定の織り手と仕事を重ねたとされ、新しいデザインを実現するためには、優秀なプロの織り手との協働制作が不可欠だったと考えられる。一方③として、SKYはアーティストやデザイナーと共にリュイユのモデルを作成し、説明書に従えば誰でもリュイユを制作することが出来るキットの販売をおこなっている。現在販売されている「do-it-yourself-kits」は二種類あり、一つは織り機を用いて作るための組織図と材料のセットである(注15)。もう一つはより簡易的な技法が用いられており、ベースとなる布に、デザインの指示書に従って針でパイルを通していくものである〔図9〕。ベースとなる布は、パイル列の間にあたる緯糸があらかじめ織られており、TSCの《ゼブラ》はこの後者の方法で製作されたものである〔図10〕。裏面に付けられたタグには、ブルンメルによって1950年にデザインされたという表示と、ソパネン氏自身による署名で2010年に製作したことが記される。キット用のデザインモデルは、SKYとデザイナーによってオーソライズされており、例えば白い面に、ややベージュがかった糸も混ぜて使用されるなど、細部を見ると多数の色糸が用いられているが、明快な織り図と、キットとして完結できる限られた色数を前提としたデザインが求められることは想像に難くない。同じデザイナーのデザインでも、モデルとして広く一般に提供されるデザインと、色彩表現に作家性の認められる作品は区別されるべきだという主張もあったようだ(注16)。もちろんリュイユの普及という面ではキットの担った役割は無視できない。リュイユの記念碑的なデザインとされる《炎》〔図11〕も、当初の長いベンチ用ラグを壁掛けサイズに改変して、1965年に縮小版が再制作されており、1979年のSKY 創設100周年記念としての再制作を経て、1985年にハンディクラフト・モデルとして販売されるようになったからこそ、現在でも親しみを持って広く知られているのかもしれない。―414――414―
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