④は、第二次世界大戦後にフィンランドのデザイン産業が商業的に成功すると、リュイユも1950年代から60年代にかけて、英国やスウェーデン、アメリカなどへの輸出が増え、これに対応するために生産の加速化が図られたことによる。リトヴァ・プオティラ(Ritva Puotila)やマルヤッタ・メツォヴァーラ(Marjatta Metsovaara)がデザインを提供したフィンリャ(Finnrya)や、ティモ・サルパネヴァ(Timo Sarpaneva)がデザインしたヴィラユフトュマ(Villayhtymä)などが知られている。こうした製品は観賞用としての壁掛けに限らず、カーペットとして床に敷いて使用されたようで、表面は手織りのように見えても、裏面では経年劣化する接着剤のようなものを使用してパイルを固定しており、パイルの密度も低い。デザインは、デザイナーの特徴は表れているが、同時代の流行を反映したものでもある。⑤の表現は作家によって多様だが、ノットを作ることと、緯糸を何列も通してノット列との間隔を広くとるというリュイユの技法上の特徴を踏まえて、TSCに具体例を探してみたい。まず、異素材を用いる点では、レーナ・ハルメ(Leena Halme)の《冬の色》(2013年)など、2000年代の作品を見ると、経糸にコットン、緯糸にウールを用い、パイルにはウール、リネン、ヴィスコースという異なる質感の素材が一つのノットに混合されて用いられている。形状は一辺約110cmの単純な四角形だが、糸の色も同系色を中心に複雑に組み合わされ、異素材の質感が作品の微妙なニュアンスを作っている。カトリ・ハーハティ(Katri Haahti)の《クランベリー畑》(2008年)〔図12〕なども、パイルにウールとリネンを用いているが、一つのノットに混ぜるのではなく、リネンによるノットの方を長く残してカットすることで、張りのあるリネンの素材感を活かした作品表面の凹凸を生み出している〔図13〕。ハーハティのように、パイルの長さに変化をつける方法は、他の作品にも見られる。インカ・キヴァロ(Inka Kivalo)の《馬着》(1985年)〔図14〕は、表面の房が複雑な凹凸を生むが、これはパイルの長さを変化させていることによる〔図15〕。加えて、色の濃淡や糸の太さが効果的に用いられるほか、別に織られた端切れは縫い付けて留められている。四角形以外の、立体感あるリュイユを制作した第一人者とされるのがクッカスヤルヴィであり《ファサード》(1986年)〔図16〕などもその好例だろう。パイルの素材はウールのみだが、右上がりに3枚の布を重ねて組み合わせたようなかたちは、パイルの長さを変化させることで各部分の厚さを変えて、重ね合わせたように見えている。クッカスヤルヴィは、壁面に設置する作品の表面に立体感を出すこうしたアプローチのほか、《森》(1987年)〔図17〕のような金属の支柱を用いて自立する―415――415―
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