鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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飾が行われた。まず1559-60年にブレッシャ出身のクリストフォロ・ローザ(1517/18-1579年)とステファノ・ローザ(1524/25-?年)兄弟がクアドラトゥーラ(透視図法を駆使して実際の建築から続いているように描かれた見せかけの建築)を制作した〔図4〕。これはヴェネツィアに導入された二番目に新しいクアドラトゥーラで、サンソヴィーノとティツィアーノ(1488/90-1576年)に高く評価され、兄弟に高額な報酬が支払われた。そして1560年、天井中央の八角形にティツィアーノの寓意画が設置されるとともに図書室に写本が搬入、配架され、図書館が利用可となった。図書館の装飾プログラムに関する同時代の資料は未発見で立案者も不明である(注5)。そのため諸説が提示されてきた(注6)。本論は現在一般に「神の知恵」や「知恵」と呼ばれているティツィアーノ作品が、「知恵」を表したものであることを新たな観点から検証することを目的とする。2 玄関ホールの天井画玄関ホールに現存する当初の絵画は天井画のみである(注7)。そこでまずローザ兄弟のクアドラトゥーラ(注8)を見てみる。兄弟は天井に台座に載り、螺旋状に巻きついた蔓と植物文様のある円柱を描いた〔図5〕。円柱は二本で一対をなし、その背後に壁面と二本で一対をなす半円柱が描かれているため、柱は前後で四本一組となり奥行感がある。柱間は欄干によってつながれロッジャのように見える。このロッジャは描かれた持ち送りによって支えられている。その下には、実際に木やストゥッコで作られた持ち送り、歯飾り、バラの花のような円形の装飾文様、突出したコーニスがある〔図6〕。描かれた建築は実際の建築の諸要素と見事に組み合わされ、境目がわからないほどである。一方、描かれた円柱はその上に施された一連の豪華な刳形を支えている〔図7〕。床に立って見上げると、錯視的な建築は四角台錐の立体形で、中央に配されたティツィアーノの寓意画へ向かって上昇、集中していく〔図8〕。次にティツィアーノの寓意画〔図9〕を見ていく。美しく気品のある女性が青空に浮かぶ白い積雲にどっしりと座している。彼女は下半身に赤い衣、上半身に白い薄衣を纏い、月桂冠を戴き、ヴェールを被っている。風になびくヴェールは光を浴びて金色に輝いている。左手で掲げた巻物は膝の上へ斜めに垂れ下がっている。上半身はほぼ正面に向き、顔を真横に向け、左下の有翼の幼児が支え持つ鏡に映った自分の姿を見つめている。本作品の解釈について言うと、現存する最古の記述は1602年のマンフレディによるもので、彼は本作品を「雲の上に座るウェヌスとクピド」と述べた(注9)。次に―35――35―

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