② 富士山絵画史の構築報 告 者:静岡県富士山世界遺産センター 教授、学芸課長 松 島 仁2022年度はオランダ・フランス・英国における在外所蔵富士山絵画の調査を実施した。オランダではアムステルダム新教会及びライデン国立民族学博物館、フランスではフォンテーヌブロー宮殿、イギリスでは大英博物館及びロイヤル・コレクション・トラストにて、それぞれ所蔵する作品を調査した。またフランスでは外交的贈答品としての美術作品についての調査をヨーロッパ各地で進めている研究者と情報交換を行った。詳細は下記のとおりである。1 アムステルダム新教会自身の著書『富士山絵画史』では外交的贈答品(Diplomatic Gifts)として海外にもたらされた富士山絵画について章を割いて詳述する予定である。拙著では、江戸時代における外交的贈答品の前例としての日光東照宮オランダ燈籠についても考察する。日光東照宮では陽明門前に寛永13年(1636)、17年(1640)、20年(1643)の3回にわたりオランダ商館から贈呈された燈籠3基が据えられる。オランダはすでに1613年オスマン朝スルタンのアフメト1世へ、前年に竣工したイスタンブールのスルタン・アフメト・ジャミーを装飾するための銅製の灯架を贈っており、江戸城へ運ばれたのち大造替後の日光東照宮に設置された燈籠も、同様の目的が期待され献呈されたことが指摘される(注1)。うち寛永13年奉納の釣燈籠は、アムステルダムの真鍮細工師ヨースト・ヘリッツゾーンの製作になり、のちにオランダ商館長となるフランソワ・カロンの言動にもとづく『日本大王国志』にも記された(注2)。ヘリッツゾーン製作によるこのシャンデリア型燈籠については、同形のものがエマヌエル・デ・ウィッテ「アムステルダム新教会の内部」(ハンブルク美術館蔵)にも描写され、同教会を飾っていたことがわかる(注3)。今回の調査では、そのアムステルダム新教会に赴き、内部に吊るされたシャンデリアについて調査を行った。なおつづく寛永17年奉納の蓮燈籠(スタンド型灯架)とブランケット型灯架もヘリッツゾーン製作とみられ、うち蓮燈籠は東側鐘楼前に露坐で置かれる。フランソワ・―557――557―
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