注⑴ Th.H.ルンシング・スヘルレール(太宰隆訳)『日光東照宮のオランダ燈籠―日本に贈られた銅DIPLOMATIE, Éditions Faton, Dijon, 2021.で、幕末期外交的贈答品における富士山の象徴的な意義、及び外交史における富士山イメージの推移を考えるうえで重要な作品である。江戸城本丸御殿中奥休息の間上段床にも描かれた〈富士三保松原〉は、屛風を贈答する徳川家斉政権にとっては政治的価値の高い重要な画題であった。ロイヤル・コレクション・トラスト本は、17世紀後半から18世紀前半、住吉具慶から広保時代の同派絵師によって描かれたと推定される、三つ葉葵紋の金具を備えた「富士三保松原図屛風」(岐南町蔵)と構図を通わせ、住吉・板谷家において重要な画事に使われた図柄であったことが想像される。一方、本図には徳川将軍家の始祖神である東照大権現を連想させる鶴も描かれており、これを縦長構図に置き換えると、同じ万延元年に遣米使節が持参した狩野董川中信筆「富士飛鶴図」とも構図を近しくする。この後、桜田門外の変以降の最幕末期において富士山と鶴、そして徳川将軍の寓意としての江戸城を組み合わせた構図は、とくに徳川家茂上洛関係の錦絵などに顕在化していくことになる。拙著ではより広範な資料の探索のうえ、ロイヤル・コレクション・トラスト本を幕末期の政治・外交史に位置づけていく。以上、2022年度は幕末期外交的贈答品を中心に、ヨーロッパでの作品調査を中心に実施した。なお当該年度は京都の個人所蔵者において、鶴澤探索筆・冷泉為泰賛「群鶴図」ほか京都画壇や江戸狩野派の作品を調査した。拙著では江戸時代中~後期堂上歌壇と画賛という枠組みのなかで富士山図を検証する予定であり、同作は上冷泉家当主の絵画への関与を考えるうえで有用な作品であった。製灯架とロウソク―』、オランダ外務省、1980年。⑵前掲注⑴スヘルレール氏著書。⑶前掲注⑴スヘルレール氏著書。⑷前掲注⑴スヘルレール氏著書。⑸ライデン国立民族学博物館キュレーターのダン・コック氏のご教示による。⑹ Estelle Baouer ed., ŒUVRES JAPONAISES DU CHÂTEAU DE FONTAINEBLEAU ART ET ⑺鈴木廣之「幕末外交のなかの美術工芸品:フォンテーヌブロー宮の江戸絵画を中心に」、前掲注⑹図録所収。―563――563―
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