鹿島美術研究様 年報第40号別冊(2023)
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題(陽景)》、《子どもが生まれ出る》、《無題[イエロー・コラージュ]》の三作品における黄色い背景も、ミロが好んで用いていたものである。1945年1~2月にピエール・マティス画廊で開催されたミロの個展では、彼の〈星座〉シリーズ(1940~41年)が展示され、ニューヨーク美術界で大きな注目と称賛を浴びていた。バーバラ・ローズは、そのミロの〈星座〉シリーズがポロックのオールオーヴァーのポード絵画に及ぼした影響を、次のように論じている。 〈星座〉は、オールオーヴァー絵画についての急進的な新しい解釈を提示した。それを実際に十分に理解できたのは、ポロック一人であった。実にポロックは、自身の宇宙的なヴィジョンを爆発させる手掛かりを、そこから得たのだった。〈星座〉では、ミロの線の網の目は、いくつかの色の染みと交わって空間中に浮遊させられており、透明な地の上に漂っている。絵具の薄塗りによって表されるその空間の広大さも含めて、多くの点で〈星座〉は、何か一つの固定的な視点で方向付けられたイメージからポロックが脱却する助けとなった。 [……]〈星座〉は、構成の秩序についての新しい解釈を提供しており、それはポロックに霊感を与えて、ドリッピングによる「オールオーヴァー」な絵画を生み出させた(注6)。1940年代はじめよりミロに深い関心を寄せてきたポロックが、〈星座〉シリーズのメロディアスで詩情あふれる空想的な絵画世界に大いに感銘を受けたことは、想像に難くない。そして、迷路のように曲がりくねった〈星座〉の線の画面いっぱいの広がりは、それまですでに自分なりのオールオーヴァーな構成をいくらか行ってきていたポロックに、新たな刺激を与えただろう。たとえば、ポロックが1945年頃の《8の中に7があった》の最上層で全面にわたって黒い線を走り回らせた時、彼の心の中にはミロの〈星座〉のオールオーヴァーなイメージがあったのではないだろうか。さらに、ポロックの1947年の《北斗七星の反射》のようなオールオーヴァーのポード絵画は、そのタイトルが暗示しているように「宇宙的なヴィジョン」を有しており(注7)、それは、ローズが指摘しているとおり、ミロの〈星座〉のそれと通じるものがある。しかしながら、ミロの〈星座〉の線の網の目が単層的であるのに対し、ポロックのポーリングによるオールオーヴァーな構成は、たとえポーリングが黒一色の場合でも、複層的かつ錯綜的なものである。ミロの〈星座〉の「構成の秩序」とポロックの―567――567―

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