3回の大会は中止(2020年)またはオンライン(2021年・2022年)での開催を余儀なくされたが、今大会は4年ぶりに対面形式での開催となり、節目となる第50回大会へ向け通常化の一歩を踏み出す格好となった。今大会への参加経緯について簡単に触れておく。報告者は、昨年6月に始まった企画セッションの募集に応募。同年8月、大会のコーディネーターであるレベッカ・モーランド氏(Rebecca Morland)より企画採択の通知を受けた。「今日の偶然とコントロール(Chance and Control Today)」と題した報告者のセッションは、主に20世紀以降の芸術における「偶然(chance)」の使用を、作品制作における「作者の関与」の減少を通じた美的創造性の追求としてのみならず、人間とそうでないものの相互作用を幅広い文脈から考察するきっかけとして捉え直すことを目的に企画。同年9月末から11月初旬にかけて発表者の募集を行い、最終的にミリアム・アシュキン・スタントン氏(Miriam Ashkin Stanton)、エステール・エルドージ氏(Eszter Erdosi)、ブレンダン・フラナガン氏(Brendan Flanagan)とエラ・ドーン・マゴフ氏(Ella Dawn McGeough)、エミリー・ヴェルラ・ボヴィーノ氏(Emily Verla Bovino)の5名による4本の研究発表を選定した。スタントン氏は、昨年ペンシルベニア大学で博士号を取得した美術史の若手研究者である。博士候補生(PhD candidate)のエルドージ氏は、エディンバラ大学のエディンバラ・カレッジ・オブ・アート(Edinburgh College of Art, ECA)において美術史と動物研究の結びつきを模索する幅広い活動に取り組んでいる。同じく博士候補生のフラナガン氏とマゴフ氏は、共にヨーク大学(カナダ)のスクール・オブ・アーツ・メディア・パフォーマンス&デザイン(School of the Arts, Media, Performance & Design, AMPD)において研究及び創作活動を行っている。ボヴィーノ氏は現在、香港の大学教育資助委員会(University Grants Council, UGC)のフェローシップを受け、香港城市大学創造メディア学科に博士研究員として在籍している。報告者のセッションは4月13日(木)の午前10時30分からUCLの教育研究所(Institute of Education, IOE)内の小教室で始まった。セッションの時間は2時間。各発表の持ち時間は質疑応答の時間を含めて25分(発表20分+質疑応答5分)とし、残りの時間は全体ディスカッションに充てた。最初の発表者であったスタントン氏の発表「重力を活かす:偶然と『空中のジェスチャー』(Harnessing Gravity: Chance and the ʻAerial Gestureʼ)」では、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp, 1887-1968)、ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock, 1912-1956)、ヘレン・フランケンサーラー(Helen Frankenthaler, 1928-2011)による物体の落下を利用した作品制作―587――587―
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