注⑴ RUSSELL, Margarita, Visions of the Sea: Hendrick C. Vroom and the Origins of Dutch Marine ⑵アカデミーの議事録には、1746年8月27日にアントワーヌ・ル・ベル(1705-1793)が「海景画家」として、1753年8月23日にクロード・ジョゼフ・ヴェルネが「海景と風景の画家」として記された。Société de lʼhistoire de lʼart français; MONTAIGLON, Anatole (éd.), Procès-verbaux de lʼAcadémie royale de peinture et de sculpture, 1648-1793, Paris, J. Baur, tom.6, pp. 33, 360.Painting, Leiden, the Sir Thomas Browne Institute, 1983, p. 3.⑶ LAROUSSE, Pierre, “Marine”, Grand Dictionnaire universel du XIXe siècle, Tome dixième, Paris, Administration du Grand Dictionnaire universel, 1873, pp. 1208-1212, p. 1208.19世紀フランスにおける海景画の定義については、以下の拙論を参照。高野詩織「1861年のサロンにおける海景画─ジュル=アントワーヌ・カスタニャリのサロン評を参照軸として」『NACT Review 国立新美術館研究紀要』第5号、2018年、20-34頁。⑷ GARHTGENS, Thomas W., Versailles, de la résidence royale au musée historique : la galerie des batailles dans le musée historique de Louis-Philippe, Paris, Albin Michel, 1984, p. 33.この他、ヴェルサイユ宮殿とフランス歴史博物館の基本的情報は以下の公式ホームページと書籍を主に参照。https://www.chateauversailles.fr/ [最終閲覧日:2023/5/15]BAJOU, Valérie (dir.), Louis-Philippe et Versailles, cat. exh., Versailles, Château de Versailles, Paris, Somogy, 2018.した海景画の二面性に対する批評家たちの立ち位置が表明されているのである。6.結び本研究では、フランス歴史博物館の「海事の間」に焦点を当て、七月王政期における海景画コレクションの特徴と受容について考察した。それによって再認識できたのは、航海の知識と風景画家としての技量を併せ持ち、制作スピードも速かったギュダンの功績の大きさである。当時の海景画コレクションは、博物館の展示方針とギュダンの作風によって性格づけられたとも言えよう。なおフランス最後の王政期は18年で幕を下ろしたが、ギュダンは1855年の第1回パリ万国博覧会の美術展で大々的に紹介されるなど、第二帝政期にも海景画の巨匠として存在感を発揮し続けた。レアリスムや印象派の画家たちも、彼の作品をほぼ確実に目にしていたと思われるが、芸術の担い手が特権階級から市民へと移り変わる時代にあって、公的注文による海景画は必ずしも歓迎されるものではなかった。それでも、陽光を照り返す海面や、刻々と表情を変える空、荒々しい波を見事に描き出したギュダンの作品は、19世紀後半における海景画の歴史的展開を予兆しているようだ。―53――53―
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