はすでに論じられていたが(注20)、挿絵の重要性について、藤岡は次のように述べている。 即ち先づ挿画は児童の興味を喚起して情操教育に資する処が多い。次に挿画によって、児童の知識を的確にする上、時には本文に記述せぬ事実をも、挿画によって諒解せしめることが出来る。尚ほ、挿画を直観させ又、説明を加へることによって、幾多の教訓を児童に与へて、徳性を涵養する效が頗る大きいのである。(注21)実際に第3期の挿絵の特徴として、第2期までは人物の肖像画や風景画が多かったが、同じ課目の挿絵でも児童が視覚的に理解しやすいように、内容の一場面を描いた動的な構図に変更されている。具体例として、第2期と第3期の教科書共に武田信玄と上杉謙信を取り上げているが、第2期が両者とも肖像画なのに対し〔図1、2〕、第3期はでは川中島の戦の内容に沿って川越しに対陣する信玄と謙信がそれぞれ描かれている〔図3、4〕。そして、このように歴史の一場面を大画面で見ることで、より強く内容を印象づけようとしたのが国史絵画である。3,教科書との共通点と傾向国史絵画と教科書の内容が類似していることは丹尾安典氏が指摘しており、「近代における国史画は、まず教科書挿絵から発芽したといってよい(注22)」と述べているとおり、丹尾氏が定義するところの「国史画」は元々歴史教育との結びつきが強く、明治から昭和に複数刊行された児童向けの国史を描いた画帖や、『奉献画帖』などにも国史絵画と共通する画題が含まれている(注23)。しかし、そうした中でも、国史絵画と藤岡の教科書編纂方針を比較すると、単に教科書の内容と画題が重複しているだけでなく、内容にも藤岡の方針が反映されていることがうかがえる。これらを整理すると、3期『尋常小学国史』と共通する画題、画題に採用されなかった教科書内課目、国史絵画で新たに追加された画題に分けられる〔表1〕。まず、『尋常小学国史』内にほぼ同じ記述がある画題は46点と半数以上である。その他、教科書内に人物名の記述やおおまかな出来事としての記述はあるが、同じ内容ではなく国史絵画で新たに描かれた画題は13点、教科書内には登場しない画題は13― 88 ―― 88 ―
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