点、第3期教科書が発行された以降の出来事を描いた画題は6点である。全体の傾向を見ると、天皇への忠孝を示した画題が多く選ばれており、織田信長〔図5〕や豊臣秀吉は戦の場面は描かれず、その他の武将も単なる武功ではなく、天皇に寄り添い、天皇のために戦うエピソードが抜き出されている。近代以降の画題では、喇叭手・木口小平や廣瀬中佐といった「現代の英雄」が絵画化され、教科書にはほとんど出てこない皇后、皇太后のエピソードも追加されている。反対に、教科書に掲載されているが意図的に画題から外したと思われる課目は、主に天皇に反目した人物や関係する出来事についてである。例えば「物部氏と蘇我氏」「足利家の僭上」「西南の役」などで、一時代を築いた藤原一族や足利家の人物は描かれず、平家や北條家は重盛など一部の人徳を評価された人物が選ばれている。こうした選定の傾向を見ると、蒲澤氏が指摘した第3期教科書の特徴「人物中心主義」「逆臣賊子とされる人物は課題名に挙げない」「教訓的物語教材の採用」「天皇に関する記述の多さ」などと一致していることがわかる。また、歴史教科書に記述がないが、他課目の国語、修身では記述や挿絵がある画題もある。これらの画題の多くは「弟橘媛」「紫式部」「楠木正行の母」〔図6〕「山内一豊の妻」といった、女子児童に向けた「活躍する女性」「良妻賢母」を表した内容を意識しているように思われる。その他、尋常小学校用にはないが、高等小学校用の国史教科書内に国史絵画と一致する内容が数点見られる。教科書の編纂内容を参考に画題選定が行われたという確たる根拠は現時点で見つけられていないが、共通点は多く、同じ方向性をもって進められたことは確かだろう。また、解説を受けながら国史絵画を鑑賞するスタイルは、藤岡が重視する挿絵を使った授業のスタイルと同様である。このように国史絵画は、国体のなんたるかを視覚的に強く印象づけるための教材として、教科書以上に意図的に選ばれた画題であったことが今回の調査でより明確となった。おわりに以上本稿では、養正館の成立背景から、国史絵画の画題選定の内容には当時の歴史教育方針が参考にされたと仮定し、養正館の施設調査委員であり歴史教科書の編纂に携わった藤岡継平の編纂方針から、国史絵画の画題に共通の方向性があると推察した。そして、画題選定当時に使用されていた第3期の国定歴史教科書『尋常小学国史』― 89 ―― 89 ―
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