鹿島美術研究 年報第41号別冊(2024)
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いる。幼児の肖像画《ハイメ・ガルシア・バヌスの肖像》〔図10〕の背景には明らかに屏風が確かめられる。川瀬が指摘するように、これらの東洋風の調度をちりばめた描写はいかにも作品の「添え物(注7)」として社会的なステータスや当時のブルジョワジーの趣味を反映して描かれており、ソローリャ作品における日本趣味の作品と考えられる。3.画譜と摺物ソローリャ美術館に所蔵される幸野楳嶺(1844-1895年)(注8)による画譜2点と摺物帖(注9)を具体的に見ていきたい。まず幸野楳嶺による画譜『工業図式』は全5編からなるが、所蔵されている画譜は三篇目で、明治16年(1883年)に出版元は大倉孫兵衛、和綴じ、横本という形で出版されたものである。3篇目には2月から11月までの風物が表されており、10月20日のえびす市〔図11〕は10月の歳時として描かれている。季節の風物を写す後進の絵手本となった。『百鳥画譜』は天・地・人の3篇からなるが、ソローリャ美術館には「地」と「人」の2冊が収蔵されている。川瀬の指摘のとおり、ローマの書籍商モーズ&メンデルのシールが貼られており入手先(注10)と考えられる。「地」は48頁に38種類の鳥の図像が描かれており、コガラやセキレイ〔図12〕などが並んでいる。「人」には32種の鳥が描かれ、花とともに描かれたスズメ〔図13〕を見ることができる。鳥という主題に注目してソローリャの作品を探ると、鳥だけを描いたものは一点のみで1905年の《七面鳥》〔図14〕が確認できる。画譜の烏骨鶏〔図15〕や鶴〔図16〕をあげて、正面からとらえた鳥の描写という点で類似していると指摘できるかもしれないが、この《七面鳥》の一作品をもって鳥の絵を中心にまとめられた画譜とソローリャ作品の影響関係を認めるとは言い難いだろう。摺物は江戸時代に当時何千枚も摺られた浮世絵版画に対して、特に非売品として贈答用に制作された豪華版の木版画を指す。注文主が狂歌師である場合には画面に図柄だけでなく狂歌の入る場合が多く、ソローリャの摺物もそのひとつである(注11)。ソローリャ美術館にはおめでたい八宝柄の表紙と裏表紙に綴じられた109枚の摺物が所蔵されている(注12)。今回の調査で美術館所蔵の摺物109点について作者と図像を確認してまとめた〔表1〕(注13)を適宜参照願いたい。浮世絵研究者であるロジャー・キーズは、ソローリャの摺物は1890年代に複製されたものと述べている(注14)。キーズは複製のレベルをコピーA(優)からコピーC(劣)に分けたが、ソロー― 143 ―― 143 ―

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