市民権を得た時代として見做される。しかしそれは東京のごく一部の状況であり、当時は画家の多い京都の都市部であっても洋画の認知度や需要は少なく、「泰西画の振興を図る」ことが洋画家の目下の課題であった。関西美術会はそれまで京都に無かった洋画の定期的な展覧会や研究会を開催し、博覧会などの出品や関連イベントを催すことを規則に掲げ、その普及と発展に向けて実行していくこととなる。関西の洋画家は明治30年頃から、横長の扁額形態の板に静物などを描いた油彩画や、屏風や衝立を用いた油彩画を多く手がけている。日本の建築空間に合わせた形態の油彩画は高橋由一など明治初期から見られるものの、中期以降は櫻井忠剛が師事した川村清雄の影響が大きく、櫻井を通じて伊藤快彦や山内愚僊らに伝わったと思われる。洋画に馴染みのない場所で旧来の形態に洋画を適合させる趣向は京都日出新聞の美術記者であった黒田天外も奨励しており、関西美術会結成を記念して寄せた記事では「日本ノ建築趣致ニ適合スルノ方法ヲ講ジ、此処ヨリ漸次ニ需用者ノ嗜好趣致ヲ開拓シ去ルコト」を洋画普及の手立てとして提案し、櫻井の扁額作品を日本建築とよく調和する好例として挙げている（注9）。従来の環境や趣味に形態や画材を合わせるという点では、日本画と似た見た目である水彩画も共通する性格乃至は役割を持ち合わせていた。明治30年代に起きたブームによって、水彩画は絵を専業としないアマチュア層や学校教育の場に広く浸透し定着していく。しかし同時期の京都では、水彩画は一般層もさることながら西洋画の普及を目指す洋画家の有力な表現手段であった。関西美術会の展覧会や批評会には油彩画と共に水彩画や扁額などの油彩画が少なからず並んでおり、そこに画材による優劣はほとんど無かったように見受けられる。たとえば明治34年9月に行われた会結成後の最初の批評会の結果は以下のとおりであった（注10）。一等 水彩画 山村秋興 牧野克次 油画 肖像 山内愚僊二等 水彩画 下鴨ノ景色 田村宗立 油画 子供 小笠原豊涯 油画 墓参り 堀規矩太郎三等 油画 田舎ノ少女 伊藤快彦 油画 処女 伊藤快彦 油画 椿 櫻井忠剛 油画 籠ニ花 櫻井忠剛― 190 ―― 190 ―
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