② 20世紀転換期フランスの定期刊行物における日本表象の変遷序研 究 者:一橋大学大学院 言語社会研究科 博士後期課程 上 田 あゆみ本研究の目的は、1900年代から1920年代にかけてフランスのジャーナリズムが提示した日本表象の特徴とその変遷を明らかにすることにある。フランスにおいて日本の美術工芸品が多く流通した19世紀半ば以降、芸術家や美術批評家がこれを分析・批評し、そのモチーフや様式を制作物に引用した結果として、美術界で日本趣味とジャポニスムの流行が起きたことはよく知られている。この流行を促進した要因の一つに絵入り新聞がある。絵入り新聞とは挿絵や写真を多用した情報伝達媒体であり、フランスでは『リリュストラシオン■ʼ■■■■■■■■■■■■』(以下LIl)や『ル・モンド・イリュストレ■■■■■■■■■■■■■■■■■』(以下LMi)が代表的である。1860年代から1880年代にかけて、これらの媒体には日本国内の政情・習俗・景観のほか、パリ万国博覧会で「展示」された日本人の様相、日本の美術品や文学作品等の挿絵が多く掲載された。これらの表象は、日本に対する人々の関心を刺激すると同時に、東洋の後進性・奇矯性・官能性を誇張し、西洋にとって東洋を異質な「他者」とするオリエンタリズムの一形態として、幻想的な日本像の形成に寄与した。日本趣味を取り入れたジャポニスム作品においても、幻想性は日本表象の特性とする見方が一般化された。しかし、1890年代から1900年代にかけて、この傾向は日本の軍事を扱う図版が目立ち始めたことで曖昧化する。筆者が事前に行ったLMiの調査によると、1904年の日露戦争時には日本を描いた図版の出現回数が121回であるのに対し、前年は3回にすぎない。つまり、1904年を境に現実的な戦争の話題が日本を描く動機になり、日本表象への従来の見方が通用しなくなった。一方、1880年代までに主流であった日本の習俗・景観・美術・文化に特化した図版は減少したものの、時折、幻想性に注目した描写も現れる。それゆえ、この時期の日本表象については、必ずしも幻想から軍事へと一方向的に変化したと見なすことはできない。また、この傾向は絵入り新聞の体系的な調査が十分に進められていない1900年以降にも同じことが言える。そこで、本研究では20世紀以降のフランスの絵入り新聞にみる日本表象の変遷を明確化するため、対象期間を1900年代から対日評価が厳しくなる1920年代に絞り、LIlとLMi(注1)から日本が描かれた挿絵や写真を全て収集し、カテゴリー分類と内容の整理を行った。カテゴリーの中でも特に「文化」に着目することで、日本趣味・ジャポニスム以降の日本表象の特徴を明らかにする。さらに、定期刊行物における日― 12 ―― 12 ―
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