㉔ 海北友松の作品における描法の分析──樹皮と岩を着眼点として ──研 究 者:東京藝術大学大学院 美術研究科 博士後期課程 内 田 夏 帆はじめに 樹木と岩について樹木と岩は、画題や作品形式を超えて画中景観の一部となるものであり、障屏画研究においては作品の特徴や作者を考察するための要素として、作品研究の重要な着眼点となっている。海北友松の研究においては、その画風が狩野派への師事ということをもってはかられ、狩野派の表現が色濃く残るものをより早い時期に、狩野派の表現が薄れているものをより遅い時期におく捉え方がなされてきた。景観の表現もまた、いわば諧調的に、狩野派の表現に近いものから次第に離れていくとものと想定され、そうした作風の変遷の中に位置づけるかたちで、昭和50年代以降には無落款の作品や他作家の筆と伝わる作品があらたに友松前半生の作として紹介された(注1)。また河合正朝氏はその変化を「対象の線的把握から対象の面的把握へ」「鋭い筆致を用いた豪放で気迫にみちたものから墨の明暗調による情趣的なものへ」移行する展開とも評している(注2)。しかしながらこのように作風の変化が辿られる一方で、友松の画歴の中で一貫して存在する特徴を探ることもまたきわめて重要であると考えられる。本考察は樹木と岩を観点として、同時代の表現をもふまえつつ、あらためて友松の表現の分析を試みたものである。1.樹皮の観察画中の樹木については、枝の屈曲や根の形状など、さまざまな着眼点がこれまでに設けられてきたが、本考察では筆触に注目する視点から樹皮に焦点をおいて観察をおこない、友松画における樹木の肌に施される描写を観察することで、樹種と樹皮の描法との関係、あるいは樹種の描きわけとはまた異なる表現のあり方について考察した。まず友松筆とされる作品の画中から樹皮の観察が明瞭に可能なものを見出していくと、32点の作例から59箇所が取り上げられた。次に、葉の様態や花の有無を確認し、作品の名称やこれまでの解説なども参照してそれぞれの樹種を確認した。ただ樹種の見極めが困難なものも存在する。まず、葉がつかず枝のみのものである― 254 ―― 254 ―
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