〔図1-①〕 。その枝ぶりは梅とされる樹木と似るものもあるが、明確に花とみなすことのできる描写がみられない。二つ目は、丸い点を打ち重ねるようにして葉を表すものである〔図1-②〕。三つ目も点を置き重ねて葉を表すものであるが、それぞれの点は丸点ではなく筆の穂先をあてたような形になっている〔図1-③〕。四つ目は筆線をつなぐように置いて葉を表すものである〔図1-④〕。五つ目は幹が屈曲せず直立するもので、その上部から竹や棕櫚を思わせる葉がのぞいているが、竹稈を思わせる節などは示されていない〔図1-⑤〕。以上をふまえつつ、観察にあたっては特に筆あとの形状に注目をした。たとえば、筆あとの先端が細く窄まる部分や筆線の次第に掠れていくところが見つかれば、筆を動かす方向が想定されてくる。このような観点をもって始筆の位置や送筆の方向の観察をおこなったところ、友松画における樹皮の描写は、付される筆触の形状と方向によって大きく以下の四つにわかれることがわかった。これを〔表1〕に描法1~4として示した。一つ目は、曲線を付すことで鱗のように見える部分をつくるものである。曲線は楕円を形づくるような弧を描き、上下方向の動きを感じさせる筆あたりとともに付される。この描き方は松の幹にのみ見られるもので、幹の一部に表されるかすかな鱗形は、たしかに亀甲状に裂ける松の表皮の様態を表すようである。二つ目は、幹に対して横方向の線が付されるものである。幹の左右端から内側にかけて、その表面を辿るかのようにわずかに弧を描く筆線があらわされる。筆線の向きや角度は幹の湾曲に即しているようでもあり、幹に対して横向きの送筆が確認できる。この描き方は、友松画に描かれるすべての梅、そして樹種を判断しがたい樹木の多くに見出される。三つ目は、斜めの筆線を並べるものである。短い斜線がおよそ幹全体に付されている。この描き方は、昭和50年代以降に友松若年期として紹介された作品に描かれる樹種の判断し難い樹木にのみ現れる。四つ目は、幹に対して縦方向の線が付されるものである。筆線はおもに幹の左右端に配される。これは柏、檜、柳とされる幹に現れた。次に、友松と同時期に置かれる諸作品に表される樹皮について観察を試みた。およそ130の樹皮をみたところ、友松画に見出された四種の筆運びに通じる描き方は例えば以下のように見出される。まず筆線の太さや明瞭さにこそ違いはあるが、描法1のような描き方、すなわち幹の上に鱗状の部分を作る筆遣いは、諸作品のいずれの松にも見られるものである。一方、描法2から4について例をあげると、描法2のような描き方は、狩野長信筆と伝わる東京国立博物館蔵「花下遊楽図屏風」の桜〔図2〕、園城寺勧学院障壁画のうち海堂を思わせる花をつけた樹木〔図3〕などに見出され― 255 ―― 255 ―
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